Dream・ファントムPain
□ファントムPain 船出
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刺々しい骸骨が描かれた不気味な《ジョリーロジャー》を靡かせて、底冷えしそうな静かな夜。
その船は今か今かと出航の時を待っていた。
「キラーさん。出港準備完了しました。積み荷も予定通りの量です。」
「…了解した。」
クルーの報告に小さく頷いて、一面白に覆われた島を見つめる。
「…キッドの頭、遅いっすね?」
不安気なクルーの言葉が可笑しくて思わず笑い声を漏らしてしまう。
「フッ、心配…か?」
「いっ、いや、決してそういう訳じゃ!…確かにキッドの頭は厄介事に巻き込まれる方だし、人より揉め事を引き寄せちまう人ですけどっ、…けど心配はしてないです。俺達の、『頭』ですから!!」
そう言って胸を張るクルーはこの船では1番年若い、まだ少年の面影が残る新入りの《シロ》だ。
しかし
……中々、見てるものだな。
と、キラーは些か関心した。
この少年が言うように、キッドはその短気な獰猛さから勘違いされるが実の所、周りがキッドを巻き込む事が殆どだった。
本人もそれを楽しんでいるから、運が良いのか悪いのかは判らないが、キッドはそういう星廻りなのだ、とキラーは諦めている。
そして何時もその尻拭いが自分に廻ってくるのだ。多少疲れはするが仕方ない。
「……人間諦めも肝心だ。」力無くボソリと呟くと、隣で少年が小首を傾げた。
「え?なんすか?キラーさん。」
「いや…何でも無い。それより…」そう言ってキラーが指し示した方を見ると、何時もの赤いコートを着たキッドが漸く姿を見せた。
「あっ!?キッドの頭〜〜〜!」そう言って両手をぶんぶん振って嬉しそうにキッドを呼んでいる。
そのシロの姿にキラーは、『名前もそうだが…犬みたいな奴だな。』と苦笑いを浮かべた。
その時、シロがハタと動きを止めた。
「?…キラーさん。何かもう一人居るような?アレ誰っすか?」知ってます?と聞かれてキラーもキッドの方に目を向ける。
確かに一人では無いようだ。片腕に乗せるみたいに誰かを抱えている。
甲板に上がったキッドの腕の中には、淡いブルーの瞳を頼りなげに揺らす女が一人。
甲板に居るクルー達は、皆訝〈いぶか〉しそうに女を見ながら動きを止めてしまった。
それに小さく舌打ちしたキッドが、質問は受け付けない、とばかりに鋭い目を光らせた。
「…出港だ。」
キッドのその一言に弾かれる様にクルー達が動き出す。
それを尻目にキッドはさっさと船内に入ってしまった。
隣ではシロがオロオロしていたが、キラーは首を小さく左右に振って溜息を零すだけだった。
……ヤレヤレ、また一悶着ありそうだな。
とすでに疲れた様子のキラーは、心の中でそうひとりごちた。