Dream・ファントムPain
□ファントムPain 誘眠
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キラーの部屋の椅子にドッカと腰を下ろすキッド。
キッドはキラーの部屋が苦手だ。何だか小難しい本が所狭しと並んでいるのがどうにも圧迫感を感じるからだ。
それにそれらの本が床やベッドに散乱している。それが何より我慢出来ない。
実はこう見えてキッドは綺麗好きだった。
「……キラー。」
「何だ。」
「ちったぁ片付けろ。」
「……………後でな。」
その返しにキッドは盛大に舌打ちするが、キラーはそんなもの慣れっこだ。
軽く流して本題に入る。
「キッド、そんな事よりあの子は誰だ。」
……『そんな事』じゃ無ぇよっ、と毒づきながらもキラーがこの質問をするのは勿論分かっていた。
「……酒場で見つけた。」
「…だから、誰なんだと聞いてる。」
「…………。」
考えて見ればキッドは、あの女の名前も知らない事に気づいた。
「…………ハァ。」
白々しい溜息をつくキラー。
「溜息つくんじゃ無ぇよっ!オレはこの船の船長だぞ!?」鼻息荒く反論にもならない反論をする。
「…で、名前も知らないのか?」
それにも冷静に返すキラーに、キッドはぐっと息を飲む。
「……キッド。船長だと言うなら、役目を果たせ。何の説明も無しに、しかも《女》を乗せるなど、クルーも納得しないぞ。」
キラーの言う事は尤もだった。
キッド海賊団の歴史はまだ浅い。キッドの下に集まる者達は多かれ少なかれキッドに対して強烈な思い入れを持った者が多い。『強くて、冷徹。』、『傍若無人。』、その上ルーキーの中では1番の高額賞金首だ。
そして何より、キッド自身のカリスマ性に惹かれているのだ。
その上で、絶対的な畏怖〈いふ〉の対象としてこの船の荒くれ者達を束ねている。
「フン、お前に言われなくても考えてるっ。」
そう言ってソッポを向くキッドにキラーは仮面の下で苦笑いを浮かべた。
…まるで子供だな。
だがキッドはやると言ったらやる男だ。そこがキラーがキッドを絶対的に信頼している由縁だ。
『考えてる。』と言えば『考えている。』のだろう。
だからキラーはそれ以上は何も言わない。
「フッ、分かった。話は終りだ。……名前位は聞いといてくれよ。」と話を切り上げて立ち上がるキラーに、オウ。と返事をしてキッドも立ち上がった。
部屋から出て行こうとしたキッドがふと立ち止まりキラーを振り返る。
「……キラー、シャツ貸せ。」
「(万年半裸の)お前が、シャツ?」
「〜〜っいいからっ貸せ!」
そう言ってキッドは、乱暴にキラーからシャツを引ったくって部屋から出ていった。