Dream・ファントムPain

□ファントムPain 波乱
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キッドが食堂の扉を開けるといつも通りクルー達が食事を掻き込んでいる。
だが今朝は些か様子が違うようだ。皆チラチラとキッドに視線を送っている。普段ならガヤガヤと喧しい食堂も今日は静かで、話す者も気がそぞろといった感じだ。

その雰囲気に眉のシワを深めて舌打ちした所で、キッドを呼ぶ声が聞こえた。
この船にあって彼のその声域は何時まで経っても馴染まない、若さ特有の高く通る声。おまけに嬉しそうに弾むそれには、親愛の情さえ滲んでいる。


「キッドの頭〜〜〜!お早うございますっ!!」
満面の笑みで走り寄るシロに、キッドは少々たじろいだ。

何を隠そうキッドは、この年若の少年が苦手だった。
何だかあの意味も無くキラキラした瞳で見つめられると居心地が悪いのだ。
『頭』、『頭』と呼ばれる度にケツの辺りがむずむずする。走り寄る少年に、まるで耳と尻尾が見える気さえした。
貧相な犬にでも懐かれた気分だ。


だから、今日も早々に追っ払う事にした。

「……シロ、」
名を呼んだ瞬間、「はい!!」とまるで敬礼でもする勢いで返事をする彼に、キッドの眉間のシワは益々濃くなる。

「…オレの部屋に適当な食いモン持ってって、女に食わせとけ。」
酷くつっけんどんなその言葉にも、少年はまるでボールを主人に投げてもらった犬の様に嬉しそうに返事をする。

「わかりました〜!」
そう言ってパタパタとキッチンに入って行った。

キッドはそれをうろんな目で見つめて、自分も空腹を満たそうと、食堂の奥にある所定の位置に向かう。

そこは他とは一線を画している。クルー達が食事をとっている机と椅子では無く、赤い皮張りのソファと、ローテーブルが配置されている。

そこに何時ものようにドッカリ腰を下ろせば、既に食事を終え、その長い足を組みながらニュース・クーを読むキラーがキッドを見もせずに声を掛ける。

「…そう邪険にしてやるな。慕われてるんだ。有り難いだろ?」
主語の無いその問い掛けは勿論シロの事だろう。

「ハンッ、何が有り難いっつんだ。欝陶しいだけだっ。」

……お前があの子を苦手としているのは、あの少年の純粋なまでの『信頼』が気恥ずかしいからなんだがな……
そこまで考えたキラーに不意に『照れ屋』の3文字が浮かんで思わず笑ってしまった。

「…フ。」

「何が可笑しい!?」

「いや。何でも無い。…それよりキッド、彼女の名前は聞いたのか?」

「………………。」

「………………。」

「………………知らね。」
「………………ハァ。」

「溜息つくんじゃ無ぇよっ。」

ボソボソと反論するキッドに、またしてもあの《3文字》が浮かんだキラーだった。
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