Dream・ファントムPain
□ファントムPain 戦場
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2隻の船に渡りが掛かる。互いに雄叫びを上げながら激しく剣を打ち合う。ギィィンと鋭く震える剣戟〈けんげき〉の音をあちこちで鳴らした。
最初に跳ね返した大砲の弾は2発が相手に命中した、1発は掠めたが惜しいところで外れた。残りの2発は勢いがつきすぎて敵船の遥か後方に着水した。
キッドの能力に驚きはしたようだが向こうも伊達に海賊ばかりを相手にしている訳では無いようで素早く立て直し、数に物を言わせようと近距離戦に切り替えてきた。
そしてあっという間に船上での戦いが始まったのだ。
敵味方入り乱れての攻防。対するキッド達は相手の半分にも満たない人数だ。その上タイミングも悪すぎた。
どんな猛者でも体力の限界はある。
あの嵐を抜けたばかりのキッド達は長引く戦いに疲弊し始めている。
キッドは大きく舌打ちして右手に能力を発動させた。ありとあらゆる金属が吸い寄せられて巨大な一塊となった。
本来この技は近距離には向かない。その上、自船では特に使いたくない。それは攻撃範囲を絞れないからだ。
敵味方入り乱れているし、自船にダメージを与えるのは間違えないだろう。
…チッ、やりずれぇが仕方ねぇ。
己のクルー達の位置を見極めてキッドが一撃を見舞った。
それからはあっという間だった。
後は残党処理の如く小さな戦場があちこちで燻っている。
キッドは甲板をぐるりと見渡し、自船の痛ましい姿に溜息をついた。しかし同時に目に入ってきた景色に違和感を感じて目線をさ迷わせた。
……?
違和感の正体を掴もうと目を走らせる。するとすぐに原因を見つけた。
甲板にごろごろと転がる赤く染まった男達、かろうじて船に立っている男達も返り血を浴びて同じく赤く染まっている。
その中に一人、細く美しい金の髪が揺れていた。
まるで戦場に立つマリア。
およそ天国には往けそうも無い者達を、慈悲の心で迎えに来たのか。
浮き世離れしたその姿に、キッドは一瞬目を奪われた。
だが次の瞬間には駆け出していた。
…あっの、クソ女!!
心臓が恐ろしく脈打っていた。胸の内でついた悪態とは正反対に、キッドは彼女の為に走った。
キッドとサラを裂くように、死にぞこ無いの海賊狩りが彼女に向けて剣を振りかざしていた。