Dream・ファントムPain
□ファントムPain 亀裂
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胸を貫く切っ先を驚きの表情で見つめる。
死の間際に見る景色はどこも赤く染まっていた。
がくりと力無く跪づき何か言いたそうに見上げた先に、聖女が立っていた。
走馬灯の様に今までの悪行が思い出されたが、それらも一瞬で過ぎ去った。
虚ろな瞳はもう何も映しはしない。ゴブリと口から零れた鮮血が男の死を知らせた。
スローモーションのように倒れた男の背後からキッドが姿を現した。手には男の命を奪ったばかりのサーベルが握られている。
サラは目の前に迫る悪魔を見つめ続けた。
キッドはブーツを鳴らし、獰猛な目で睨みつけサラに歩み寄る。
そして彼女の手首を掴み乱暴に持ち上げる。それだけでも折れそうに細い手首を尚一層締め上げた。
「っつ!!」
痛みにギュッと目をつぶり堪えるサラ。
それを見てもキッドは力を緩めはしなかった。
今キッドを支配しているのは《怒り》だ。
「…どうして部屋から出た?」
自分の言い付けを守らなかった事への怒り。
「、そんなに死にてぇか?」
そんな女を助け、あまつさへ安堵している自分への怒り。
ぎりぎりと締め上げた手首を壁に打ち付ける。
唇が触れそうな距離で見つめ合った二人だが、そこにシャワー室で感じた僅かな甘い空気は無い。
底冷えする様な声でキッドが囁く。
「…死ぬ為に、ついて来たのか?」
見つめ合うサラの喉が、それを肯定するかのようにごくりと動いた。
ニヤリと口角を上げるキッドがサラに血に濡れたサーベルを振り上げた。
「お頭っ!!!」
同時に背後からシロが叫んだ。その制止の声と共にサーベルが振り下ろされる。
ダンッ!!!
すぐそばで大きな音が響いた。燃えるように熱かった。
キッドの振り下ろしたサーベルは、掴まれたサラの手の平に打ち立てられていた。
「……っっ……!!!!」
余りの痛さに叫び声も上げられずサラは自分に突き刺さったサーベルに必死に手を伸ばす。だがその柄の部分はキッドが握ったままだ。
キッドは脂汗が滲むサラの顔を掴み、無理矢理自分の方を向かせる。
そして紺碧の瞳に笑いかける。
「…残念だったな。」
サラの目に笑う死に神が滲んで見えた。