Dream・カルマRain2
□カルマRain 互
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触れ合わせているのは唇だけなのに、甘い痺れはマチの全身を巡る。
息の仕方も忘れたみたいだった。
けれど今のマチには空気なんて必要無い。マルコから与えられる熱だけがマチの鼓動を動かし続ける。
喉奥から漏れる声が恥ずかしくて、思わずマルコの腕を掴んでしまった。
強〈したた〉かな筋肉が覆うマルコの腕に浮き立つ血管がトクトクと音を起てている。その音が指先を伝って自分の鼓動と重なった。
「マチ…」
マルコが自分を呼ぶ声が酷く切なく響いて、マチは答える様に瞳を向ける。
そこには、何も隠さないマルコが居た。
愛しさも、不安も、情欲も、何もかも剥き出しのマルコが。
そしてきっと自分も同じだ。
触れ合いたくて、でも怖くて…
だけどマルコが名前を呼んでくれる度に幸福感が心と体を浄化する。
マルコの肉厚な唇が次の音を紡ごうとした時、
………ドン!ドン!ドン!
力任せなノックの音に、マルコもマチもビクッと体を震わせて同時にまだけたたましい音を立て続けている扉を見た。
その音にマルコはがっかりした様な、ホッとした様な、どちらともつかない溜息を零した。
ノックが無ければあのまま暴走していたかも知れないマルコは、でもやっぱり名残惜しくてマチにもう一度啄むような口づけをしてから体を起こした。
「……うるっせぇよい。」誰だい?とドアを開けたマルコのその顔が一気に引き攣った。
「……うるせーだと?誰に向かって言ってやがる、この鳥頭が。」
額に青筋を走らせて、極悪な顔を見せるのは白衣を着たこの船の神。
『生きるも死ぬもこの人次第。』
そんな文句で親父の次に畏れられている船医・ダリオ・ヒューゴ(通称・ドク)が立っていた。
「ド…ドク。」
《不死鳥》の自分にドクが用が無いのは分かっている。ごくりと唾を飲み込むマルコは完全にヒューゴの気迫に気圧〈けお〉されていた。
「おい、小僧。マチは死にかけてたんだぞ?それを、何時までイチャつきゃ気が済むんだ?ん?」と地を這うようなそれに冷たい汗が背を伝った。
「まさかとは思うが、傷が開く様な真似はしてねぇだろ〜なぁ、ぁあ?」
その言葉に(多少ギクリとしたものの)無言でコクコクと頷けば、恐ろしくドスの効いた声でドクがマルコに迫る。
「ンなら、さっさと医務室に、連 れ て 来 い 」
ドカドカと廊下を歩き去るヒューゴを見て、すれ違うクルーは、『今日は絶対世話になるまい。』と心に誓った。