Dream・カルマRain2
□カルマRain 愚
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重いしがらみをかなぐり捨てて、常識や制度から自分を解き放つ。青い海に出れば、心は何処までも自由だ。
マルコは根っからの海賊だった。なるべくしてなったのだ。
雲を映し輝く青い海はその最果てへの好奇心を駆り立てる。
夕陽に橙〈だいだい〉に染まる海は何時まで経ってもマルコの憧憬〈どうけい〉の念を離さない。
飲み込まれそうな程暗い夜の海も波音を聞けば子守唄の様に心を慰める。
『…安心する。大きくて優しくて……』
マチのその一言がマルコの心を震わせた。
不覚にも泣きそうだった。
それを隠すために船縁に座るマチの肩に顔を埋めた。
「マルコ?」
耳の側で聞こえるマチの柔らかな声に、マルコはギュッと目をつぶり一呼吸置いた後ゴソゴソとポケットから何かを取り出しマチの手を取る。
「!……マルコが…持っていてくれたのか。」
呟きながらマチは自分の手の中の物を見つめた。
そこには《ル・パー》から盗んだ青い黄金蝶が、月明かりに儚い光を放っていた。
「マチ。」
固い声で呼ばれたマチはマルコに視線を向けた。声と同様真剣な表情にマチは少しドキリとした。
手の中の冷たいガラス瓶を知らず握りしめていたら、その上にマルコの大きくて少し節くれだった、だけど暖かな手が置かれた。
その手を見たまま動かないマルコにマチが訝しんで問い掛ける。
「?マルコ?」
声を発した瞬間、マルコがギュッとマチの手を握りしめた。
「…マチ。」
名を呼んで顔を上げたマルコの心には既にある決意が固まっていた。
これからする事が、例えどんなに卑怯でも、誰に罵られようと…
……全部俺が引き受ける。
「お前は一人じゃない。お前の体には俺達の血が流れてる。」
「?」
突然の話にマチは、マルコを不思議そうに見ている。その様子に少し気が抜けてマルコは微笑む。
「…フ。輸血したんだい。とにかく出血が凄かったからねい。」
「え!?」
初耳だった。まさかモビーの皆がそこまでしてくれたとは思いもしなかった。
驚くマチにマルコは続ける。
「ま、1600人も居るんだ。しかも血の気の多い奴らがねい。…まさか親父も同じ型とは思わなかったがねい。」
その時の事を思い出しているのか、マルコは優しげにマチを見つめた。
「…だからマチ、覚えててくれ…これから先どんなに酷い状況の中でも、どんなに孤独に感じても、お前は一人じゃない。」
だからどうか忘れないで欲しい。
この胸の内の嘘が白日に晒されても、疑わないで欲しい。
今のこの気持ちが、この言葉が、決して嘘なんかじゃないと。
愛してる。
今はとてもじゃないけど口には出来ない思いを込めて、マルコは触れるだけの口づけをマチの瞼に落とした。