Dream・カルマRain2

□カルマRain 忍
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暗いモビーの通路を己の気配を限りなく消して歩く。
普段から通り馴れた長い通路も夜は静かでどこか不気味だ。外からは波の飛沫〈しぶき〉が船の側面を叩く音が聞こえるのみ。

マルコはそっと、音を殺し息を潜めて一歩を踏み出す。ここであの男に見つかっては己の命が危うい。
漸く目的の場所にたどり着く。扉にゆっくりと手を掛け、素早くその身を滑り込ませる。そしてフッと安堵の息をつくのだ。


そこまでして辿り着いた場所。


《地獄の番人》こと、船医のダリオ・ヒューゴの縄張り。


『医務室』である。


医務室の癖にやけに禍々しい前置きだが、今はまさに通うのには命掛けの場所だった。

それも全て船医の出した『面会謝絶令』 の所為だった。
あの宴の後、やはり無理が祟ったのかマチは熱を出してしまった。
それだけなら、ドクも小言を言うだけだったのだが、マチが熱を出したと聞いたクルー達が昼夜問わず見舞いに来るから遂にブチ切れたのだ。

『これじゃ身体が休まらんわ!バカタレが!
お前らはマチが治るまで来るんじゃ無ぇっ!!』

そうして船内のクルー、及び隊長までにもマチへの『面会謝絶令』が発令されたのだ。



だが1番煽りを喰らったのはマチを愛して止まないマルコ、その人だろう。
最初の二日程は我慢もしたが、マルコもとうとう、船医同様ブチ切れた。そして深夜に医務室に忍び込むという行為を毎夜繰り返している。


今日は通い始めて三日目だ。初日はやはり辛いのかマチは目を醒まさなかった。暫く付き添ってその場をあとにした。

二日目には熱もほぼ下がったのか、マルコが傍に行くと気付いて起きてくれた。
その時のマチの嬉しそうな顔を思い出すと、昼間もにやけてしまってハルタに気持ち悪がられたのも記憶に新しい。

そして三日目の今夜。
やはりマチは起きて自分が来るのを待ってくれていた様だ。



窓からの月明かりのみの医務室で、二人は小声で囁きあう。そんな二人を柔らかな風で揺れるカーテンがそっと隠していた。
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