Dream・カルマRain2

□カルマRain 深
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ぐっ、と体を反らせて凝り固まった肩を回す。
何時もはその柔軟な力を遺憾無く発揮する筋肉も数時間のデスクワークですっかり縮みきっている。
暫く体のあちこちを伸ばしてからマルコは自らの目頭を押さえた。
最近夜には医務室に通う為に時間が取れずに溜まっていた書類を昼食の後からずっと片していた。

マルコは1番隊隊長だ。己の隊のみならず、各隊から上がって来る報告(主に、怪我や病気での欠員、補充など)や、備品、食材、火薬。果ては次の島までの航路の確認まで、やらなければならない仕事が山積みだ。
勿論、それぞれの部門できちっと纏められてはいるが、それらを確認、調整するのには毎回骨がおれるのも事実。

……汚ぇ字だねい。相変わらず……と、エースがやっと提出した書類を漸く読み終わった頃には、マチに逢いたくて堪らなくなる。

最近ではマルコ自身驚く程マチに対する気持ちに抑えが効かない。

今もマチに対して隠し事を持っている後ろめたさはあるが、自分自身それにはある意味決着をつけ(或は開き直り)、その時はその時だと思う様になったからだろうか。
それとも今の幸せが《嘘》と言う砂上の城のように脆く儚いと、心の奥底の、それよりももっと深い場所で感じているからだろうか。


マチを思い思考に沈んでいたマルコだが、キィっと扉の蝶番〈ちょうつがい〉が軋む音が聞こえて振り返った。
次いで聞こえる微かな開閉音。だが自室の扉では無い。

「…?」
隣から聞こえるそれに耳を傾ける。

床が軋む音が聞こえた所でマルコは弾かれる様に部屋を飛び出した。

そして直ぐさま隣の扉を確認すれば、ドアは閉まりきらず部屋からの明かりが漏れている。
マルコはゆっくりとそのドアを押し開けた。すると先程と同じ蝶番の軋む音が、その部屋の主を振り返らせた。

「マルコ。」
呼ばれた自分の名前に、その響きにすら胸が高鳴る。
そんな事今まであっただろうか?

否、マチだからだ。

そしてマルコも応えるように彼女の名を呼んだ。

「マチ。」

自分がマチを呼ぶ時に甘さが滲む事を彼女も気付いているだろうか。

俯いて目を泳がせている所を見ると、気付いている様だ。それが可愛いが、こっちまで照れてしまう。
それをごまかす為にマルコは平然を装いながら話しかける。


「もぅ戻っても平気なのかよい?」

「ドクが戻っても良いって。…まだ動き回っちゃダメらしいが。」
そう言って備え付けの机の上にある黄金蝶に手を伸ばした。

「………。」
「………。」
マルコもマチもそれを暫くじっと見つめた。

青く染まった双眼をマチは鍵の掛かる引き出しに仕舞う。引き出しの中には既に赤い色の瞳が仕舞われていた。


この引き出しが一杯になる頃、マチと自分はどうしているだろうか。

変わらず傍に居れる事をマルコは願った。

その願いをまるで閉じ込める様に、マチが引き出しに鍵をかける様〈さま〉を、マルコは祈る気持ちで見ていた。
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