Dream・カルマRain2
□カルマRain 終
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島を包み込んでいたあの白く美しかった雪。
低い空から容赦なく降る冷たい雨が、柔らかに積もっていた雪をいびつに溶かし灰色の塊にしてしまった。
どこをどう戻ったのかマチは目の前のモビーを見上げた。
見上げた先にある船は何時も無条件にマチを受け入れてくれた。
不意にマルコの声が聞こえた気がしてマチは目を凝らした。だがこの雨の中だ、甲板には誰も居なかった。
静かに自室に戻り、マチはマルコがくれたコートをクローゼットに掛けた。裾からは先程の雨粒がポタポタと床に染みを作っていた。
そして今度は机に向かい、小さな鍵で引き出しを開ける。中には赤と青の《黄金蝶》がある。そして先程海軍から…否、バードルから《約束》の証として渡された黄金蝶も一緒に仕舞う。
この船から降りたら、故郷の土は二度と踏めないだろう。だからせめて、この三つの黄金蝶は彼らに託そう。
そしてマチは、鍵を閉めずに引き出しを閉じた。
次にベッドのしたから革製の包みを引っ張り出した。巻物の様に丸められたそれの紐を解き、片手でザッと勢いよく引き開ける。中にはびっしりと暗器が納められている。それらを一つ一つ確かめながら身に纏った。
モビーに乗ってから遠退いていた感覚が戻ってくるのをマチは感じた。
そして思い出す。自分が何者なのかを。
黒く冷たい感情が体を満たす。こんな自分が、この船の人達と向かう先が同じな訳が無かったのだと。
部屋を出る彼女の瞳に、黄金蝶はもはや棲んでは居なかった。
彼女を追い回していた黒い闇が、彼女の未来を消し去ってしまったから。
食堂に集まった面々は皆揃って渋面だった。
マルコの話しが始まってからは、誰も声を発していない。
ずっと、隠し続けたマルコの嘘と罪。その全てを皆黙って聞いていた。
そしてそれは、マチの耳にも聞こえていた。
部屋を出たマチは、黙って船を降りるつもりだった。自分が居なくなったとしても、事がばれる頃には全てが終わっているだろうと思ったからだ。
マチにはある程度バードルの考えが予測出来ていた。
まず、『ヒューマンショップに売る。』
勿論売られるつもりは無いが、そうなるとバードルも必死だろう。1番シンプルな発想だが生きては戻れない確率が最も高い。
そして最も厄介なのは、『海軍に何かしらの報酬の代わりに自分を引き渡す。』
バードルが海軍と一緒に居た事からこちらの方が可能性が高い。だが、そうなると厄介だった。
バードルを殺す事が出来ても、自分はどの道海軍の元に行かねばならない。白ひげの船に居る事がばれているかも知れない事を考えると、姿を消す訳にもいかなくなるからだ。
そして二度と外には出られないだろう。
食堂の外に立っていたマチは扉を開けた。
『白ひげと縁を切ってこい。』
バードルの言葉がマチの耳に、錆の様にこびりついていた。
そして今、マチの哀しい最後の大芝居が、その幕を開けた。