Dream・ゴールデンRule
□ゴールデンRule その4:人間は思ったより優しい生き物ですね。
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ゴールデンRule
その4:人間は思ったより優しい生き物ですね。
「いや。」
「……役目なんだ。行ってきなさい。」
「いや。」
かれこれ一時間程続くやり取りに少女の前に立っている年嵩〈としかさ〉の男が深くため息をついた。
男はシンプルな三つ揃えのスーツにシルバーの飾りがついたループタイ。頭にはダービーハットをかぶり紳士然としている。その手にはきちんと折り畳まれた紙を持っている。
男がついた深い溜め息に負けない程不機嫌な色を浮かべる少女が、その紙を忌々しげに見つめる。
「…絶対にいや。」
「お前が嫌かどうかは関係無い。これは我々のお役目なんだよ?」
何度も繰り返されるやり取りにも穏やかな姿勢を崩さない紳士は少女の前に手の中の紙を差し出す。
それにプイッと顔を背ける少女にも決して怒ったりはしない。
「………リツ、」
諭すように呼ばれた名前に少女は視線を戻す。
彼女はこの紳士に名前を呼ばれるのが苦手だった。
彼に呼ばれたら遅かれ早かれ彼の望み通りに事が運ぶのを知っているからだ。
一見物腰が柔らかなこの年長者は、なかなかに頑固だ。それに彼女の名付け親でもある。
しかしそれを差し引いた上で、このやり取りが不毛で、尚且つ結果が決まっていたとしてもリツは素直に頷く事が出来ない。それ程に、自分達に与えられる《お役目》なるものが嫌いだった。
「リツ、いい加減にその人間嫌いを何とかしなさい。」
「…そんなの無理です。あんなに勝手な生き物、好きになんてなれません。それに、それだけじゃありません。陰気臭くて嫌なんです、この仕事。向いてないんです。」
きっぱりと言い切ったリツに紳士が苦笑いを浮かべた。
………だから、嫌だと言ったのに。
リツはシャンクスの部屋の扉の前で小さく息をついた。
ベンに教わったシャンクスの部屋。一歩踏み入ったそこは、
《魔の巣窟》
正にそんな感じだった。
足の踏み場が無い程散らかっている。部屋の中は、ローテーブルにソファー、キャビネットにベッドと至ってシンプルな作りだが、その散らかりようは尋常では無い。
まず目につくのは酒瓶だ。空の物から、中身が残っている物、そしてその銘柄も一つとして同じ物が無い。
それから何だか訳の分からないお面や飾り物、宝石に武器の類いまでがあちこちに雑多に置かれている。それらの所為で部屋の中は《色の洪水》だ。
…目がチカチカする。
こんな部屋では、全くくつろげ無い、いや、それどころか変な病気にでもなりそうだ(勿論リツは病気とは無縁だが)。
しかし、部屋の主は気にもならないのか既にベッドの上で酒を煽り、だらしなく端から下ろしている足をぷらぷらさせながらサンダルを揺らしている。
………思いっきりくつろげている。
本当に何故こんな男が《船長》なのか、信じられない気持ちでリツは目を眇めた。