Dream・ゴールデンRule
□ゴールデンRule その6:祈る心に神は宿り、甘い花は夜に咲く。〔前編〕
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ゴールデンRule
その6:祈る心に神は宿り、甘い花は夜に咲く。〔前編〕
風の緩やかな日が続いていた。
リツがシャンクス達の船に降りて(落ちて)から3日が経過していた。
その間、シャンクスはと謂えば、
「またここに居たのか。」
「………。」
背後から聞こえた声に、最近ではすっかりお気に入りの場所となった舳先からリツがむっすりした顔で振り返った。
「ふはっ、そんなブスくれた顔するなよ?」
しょうがねぇだろ、そんな風に言いながらニッカリ笑うシャンクスがリツには憎らしくてしょうがない。
そう、シャンクスは変わり無く健在だった。
と、言うか全く死ぬ感じがしない。怪我の一つも無い。
全くの無傷だった。
「…つまらなそうだな?」
「…えぇ、つまらないです。早く帰りたいんですが、協力して貰えませんか?…例えば、ここから飛び込んでみる、とか。」
そう言って自分が立って居る舳先の下を指差す。
「……恐いことを真顔で言うんじゃありません。」
苦笑いで返すシャンクスは今日も元気そうだった。
そんなシャンクスに溜め息をついたリツが視線を水平の彼方に向ければ、こんもりとした緑に覆われた小さな島が見えた。
「あれは、…島、ですか?」
「そうだ、ちったぁ退屈しのぎになるだろ?」
「あの島に降りるんですか?」
心なしか弾んだリツの言葉にシャンクスが頷く。
「おう!上陸するぞ!」
それを聞いたリツは眼前に迫る島を、小さな両手を胸の前でグーにして夢中で見ている。
「…あんまり前のめりになるなよ、落ちるぞ?」
そしてシャンクスはくつくつと笑いながらひょいっと、その細腰を掴みリツを舳先から降ろす。
「っひ、人を荷物みたいに持たないで下さいよ!失礼じゃ無いですか!」
はしゃいでしまったのを見られてバツが悪いのかリツは文句を言いながら行ってしまった。
「…ほんと、口が減らねぇなぁ。」
だが、そんな言葉とは裏腹にシャンクスは何時までも笑みを浮かべてリツを見ていた。
その島は豊かな緑に覆われた花の香りのする美しい島だった。
林業に水産業、その他にも島の特産物等でとても栄えている様子だ。
船を着けた瞬間から街の熱気が伝わってくる。
港は宿屋の客引きや、土産物の露店、水揚げされたばかりの魚の競り等で賑やかしい。
船を係留する係りの親父もシャンクス達が海賊だと知ってもにこやかに対応している。
「やぁ、いらっしゃい。」
船から伸びるロープを器用に巻き取りながら海の男独特の浅黒い顔に笑いじわが浮かんだ。
「えらく賑やかだな、いつもこうなのか?」
ベンが煙草に火をつけながら問えば、親父が一瞬驚いた。
「あんたら、知らずに来たのかい?」
「…何がだ?」
と、シャンクスが横から顔を出して聞き返した。
「そりゃ、運が良い!」
「……そうでしょうね、そりゃ、運が良いんでしょうよ。」
親父の一言に心底嫌そうな顔をしたリツがブチブチと文句を言いながら色鮮やかな果物に惹かれて歩き出せば、シャンクスに直ぐ様首根っこを掴まれた。
「こらっ、勝手にうろちょろするなよ。」
「子供じゃ無いんですからっ!ちょっ、離して下さいよ!?」
じたばた暴れるリツを押さえながらシャンクスが親父に続きを促す。
「で?何があるんだ??」
「あ?…あぁ、今日は年に一度の収穫祭だ。この祭りを見に、わざわざやって来る連中が居る程有名なんだぜ!」
シャンクスとリツに気を取られていた親父がリツをしげしげと見ながら答えた。
「…それよりも、あんたら海賊だろ?まさか、その《お嬢ちゃん》も海賊だって言うんじゃないよな?」
「勿論、かいぞk…「違う!!」」
とんでもない事を肯定しようとするシャンクスにリツが否定の声を上げて、今度は本格的にシャンクスとギャースカ言い合いを始め出す。
そんな二人を横目にベンが街の方を見ながら親父に尋ねる。
「あれは?」
「あぁ、あれは《花娘》だ。」
「ハナムスメ?」
「町中の若い娘達の事だ。祭りの日には揃いの衣装を着るのがしきたりなんだ。」
視線の先には確かに同じ格好した娘達が楽しそうに歩いている。
白いオフショルダーのシャツはパフスリーブ、コルセットのような編み上げのベスト、スカートはベストのとも布で出来ている。
たっぷりとしたプリーツが歩くたびにフワフワと揺れて可愛らしい。ベストもスカートも極彩色の花の刺繍が美しかった。
頭に被っている蔦で出来た冠の深い緑が鮮やかな刺繍に映えている。
「成る程、《花娘》か。美しい。」
ベンが一つ煙を吹きながら目を細めた。
隣ではリツと言い合いながらも話を聞いていたシャンクスが密かに、にんまり笑っていた。