Dream・ゴールデンRule

□ゴールデンRule その8:貴方は貴方らしくその時を迎える。
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ゴールデンRule
その8:貴方は貴方らしくその時を迎える。



花が香る島を後にしてから2日経った。

つまりシャンクスが髪留めを送った日から2日だ。

あの夜からリツの様子が明らかに変わっていた。
初めて彼女がやって来た頃以上に、クルー達に近付かなくなった。

線引きをして、自ら他者を寄せ付けない、そんな態度を取るようになり船首に立ち海を黙って見つめている。

クルー達が話しかけても小さく返事代わりに頷くだけだ。シャンクスに至っては全く視線も合わない日が続いている。

甲板にある大きな酒樽に腰を下ろし、そんなリツをつまらなそうに見つめるシャンクスも2日もすれば馴染みの風景になっている。



「…あんた、一体何やらかしたんだ?」

呆れた顔でベンが尋ねるがシャンクスが死んだ目で、「さぁ?」と答えるだけだ。


……まったく、

ベンが一人ごちながら小さく溜め息をついたのは仕方の無い事だった。

比較的大きな船と言えど所詮は限られた空間だ。この冷戦状態が続いては鬱陶し過ぎる。海も空も湿気りぎみな上に船まで湿気っては過ごしにくい事この上無い。クルー達も二人の様子が気になるのかテンションが低い。

しかし、それに業を煮やしたのは当の本人シャンクスでも無く、その手綱を握るベンでも無く、何時もギャースカ文句を言うヤソップでも無かった。



「あ〜ーーー!!もう!お頭も、お嬢ちゃんもいい加減にしろ!」

この船では《比較的》気の長いルゥだった。

突然の叫び声にリツもシャンクスもびっくりして、視線を向けた。

「何があったか知らねぇが、とにかく謝れ!!お頭!!」

その言葉にすかさずシャンクスが突っ込んだ。

「ぅおい!何で俺だ!?」

しかしそれを無視してルゥがリツに詰め寄る。

「な?お嬢ちゃん、キゲン治してくれよ?お頭もあぁ言ってる事だし、な??」

「おいおい、何も言っちゃ無ぇよ。」

シャンクスが尚も否定しようとするがルゥは話を勝手に進める。

「とにかくっ!お頭も反省してる!!何なら俺も謝る!」

そう言って土下座しそうな勢いのルゥがリツの肩に手を置いた瞬間、渇いた音が甲板に響いた。

ルゥの手が、リツによってパシりとはたき落とされたからだ。

静まりかえった甲板に久しぶりに聞く彼女の声がした。


「いい加減にして下さい!!」

「…お嬢ちゃん?」

「何なんですか?…あなた方はっ!一体何なんですか!?」

苛立ちを隠さない声に、皆が彼女をポカンと見つめていた。

「私が、何者か、忘れたんですか?私はっ、あなた方の頭を迎えに来た死に神なんですよ?」

ダムが決壊したかの如く一気に捲し立て始めたリツの叫びは止まらない。

「なに和んじゃってんですか!?なに仲間みたいに扱ってるんですか!?…っもっと、何かあるでしょう?文句の1つや、恨み言の1つが!!」

「…………。」

自分が何を言いたいのか、どうしたいのか、もうリツにも分からなかった。
支離滅裂だと分かってはいるが、まだ呆けた顔で自分を見ているだけの面々に余計腹が立つ。

「どうして何もしないんですか!どうしてっ…、…例えばっ、私を殺そうとしてみるとか、海に捨てるとか、……何で私を放って置くんです!私の所為で死ぬんですよ!?あなた方の頭が!!」

一息に言い終えたリツが、ハァと息を継ぐ。急に静かになった甲板に足音が響いた。

その音に視線を上げたリツの目に鮮やかな赤が揺れた。
海を走る風に合わせて靡く赤い髪に、澄んだ空の青が美しい。

その美しさにも劣らない男が、その矜持に相応しい真っ直ぐな瞳でリツを射抜いた。



「それは違う。」


はっきりと言い放たれた言葉は、しかし、彼女には直ぐには理解できなかった。

「…は?」

今度は逆にリツが呆けた顔をした。それにシャンクスが小さく笑った。

「聞こえただろ?…それは《違う》。」

一体何がだ、とリツが口を開こうとしたのと同時にシャンクスが続けた。

「お嬢ちゃんこそ、俺が、…俺達が《何者》か、忘れちまったんじゃ無いか?」

器用に片目を眇〈すが〉めたシャンクスがニヤリと笑う。

後ろでは同じ様に笑う男達が、シャンクスと同じ様にその瞳の奥に覚悟の色を浮かべていた。
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