Dream・ゴールデンRule
□ゴールデンRule その10:神は愛をその息吹に込める。
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ゴールデンRule
その10:神は愛をその息吹に込める。
海に生きる男達。
雄大で、時に残酷な青い世界。
命一つで渡るには余りにも危険で、余りにも無謀。
だが、そこに魅せられる。
馬鹿な奴等だと罵られようが、この胸に滾る想いは止められなかった。
《赤髪海賊団》
船長はあの、伝説の海賊《ゴールド・ロジャー》の元クルー。
赤髪のシャンクス
その首をとって一旗揚げようと挑むのは、まだ結成して間無しのひよっこだ。
しかしそこは人数でカバーするつもりなのか、レッドフォースに横付けされた船からは波のように大挙して押し寄せてくる男達。
「おーおーおー、えらい大所帯じゃねーか。」
マストに登ったヤソップが単発式のライフルを構えながら鼻を鳴らす。その口許は楽しそうに弧を描いている。
「これなら向こうの食糧庫が楽しみだぜ!」
その下では、ルゥが肉を頬張りながら銃にいそいそと弾を込める。込めながら、敵船の食糧庫を想像したのか鼻唄を歌う始末。
「こっちに誘き寄せてヤルか、」
冷静に言ってみせるベンが両手に愛銃を構えながら煙草を吹かした。
「リツ。」
気付けばもう誰もリツを『お嬢ちゃん』とは呼ばなくなっていた。
開戦の合図の様に男達が閧〈とき〉の声を上げながらもうそこまで迫っている。なのにこちらを向くベン達は彼女に優しい眼差しを向けている。
「俺達は、間に合わねぇかもしれねーが、…お前が居るなら安心だ。
…お頭を、どうか頼む。」
明かりの抑えられた部屋はシャンクスの浅く、微かな息遣いが聞こえる程静かだ。
戦いの音は遠く、何処か別の世界の事の様にさえ聴こえた。
きっとベン達が押し留めているのだろう。
自分達の掲げるジョリーロジャー、
堂々たる生きざま、
そしてその魂。
シャンクスという男の最期が、どうか穏やかであればと願っているのか、戦いの中でさえ無駄弾を撃つ者も、雄叫びを上げる者も居ない。
大挙する無法者を迎え撃つ者達は誰も無口だった。
「………ふっ、」
小さく零れた吐息にリツが声を掛ける。
「シャンクスさん?」
「…居たか、お嬢ちゃん。」
「当たり前でしょう。今居なくて、いつ居ろっていうんです?」
わざと軽い調子で返すリツにシャンクスはゆっくりと手を伸ばした。そして彼女の柔かな髪を撫でる。
「……優しいな、お嬢ちゃんは。」
「…っ!」
ここにきても尚、優しく笑むシャンクスに、ぐっと唇を噛む。
だがリツは堪えきれずに遂に本音を洩らした。
「…っシャ、シャンクスさ、……死なないで下さいっ、…死なない、っで、下さい……っ、お願、」
涙がリツの頬を濡らした。
しゃくり上げて泣き出す彼女の頬をシャンクスが宥めるように拭ってやる。
「……お嬢ちゃん、泣いてるところ悪いが、俺は死なん。…俺は、…この傷で死ぬわけにはいかない。」
「…シャンクスさん?」
「俺の所為で、アイツは…ルフィは、…カナヅチになっちまった…。その上、この腕の所為で死んだなんて事になったら………、アイツに、これ以上十字架を背負わせる訳にはいかねぇ。…だろ?」
そう言ってウィンクまでして見せたシャンクスにリツはコクコクと何度も頷いた。
倒れても尚、力強いしっかりとした視線がリツを釘付けにした。そしてお互い小さく笑い合う。
「…ですね。」
涙を拭ったリツが頷いた瞬間だった。
数人の男達がシャンクスの部屋の扉を蹴破った。そしてその目に横たわるシャンクスを捉えた。
「…な、んだぁ?《赤髪のシャンクス》がどんな奴かと思えば、とんだ死に損ないじゃねーか!」
半ば勢いだけで勇んで飛び込んだが、シャンクスを見た瞬間、その姿を見て急に大きく出た男は室内にサッと目を走らせる。
室内には小さな子供と、この船で最も恐れていた男の息も絶え絶えな姿に勝ちを悟ったのか、
イケる、俺はツイてる、
そんな事を思いながらゴクリと唾を飲んだ。そして手にしていた大剣を振り上げる。
「赤髪のシャンクス!!その首貰ったーーーー!!」