Dream・ゴールデンRule

□ゴールデンRule その12:求めよ、さらば与えられん。
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ゴールデンRule
その12:求めよ、さらば与えられん。



『シャンクスさん。』

『リツ。』


チュッ、と秘かな音を発てて彼女の白く細い首筋にシャンクスは口づけを落とす。
彼女はそれに擽〈くすぐ〉ったそうに小さく身をよじった。

『ん、』

耳を掠めた可愛らしい吐息がシャンクスを引き寄せる。細腰に回した腕をぐっと引き寄せれば彼女の柔らかな感触が男を昂らせた。

『リツ…』

『……あ、』

首筋に浮かび上がる艶かしい血管に舌を這わせる。鎖骨から耳の側まで緩やかに舐め上げれば、彼女の甘い香りが匂い立った。

愛しい彼女の香り。
瑞々しい夏の夜に咲く真っ白な華の香り。
それを余すことなく胸に吸い込む。





「……………へ、………へ、
         へっっくしょん!!」


………………ん?ここは、

何時もの見慣れた甲板の上、シャンクスは酒瓶片手に寝ていたようだ。
空は白々と明け始めていた。


「………………夢、か。………ダァーーーーー!!俺はなんちゅー惜しいことを!?」

ガックリと項垂れたシャンクスは胡座をかき、頭をガシガシ掻きむしったが己のムスコが空に向いているのを見て一人、照れ笑いを浮かべた。

「あ〜…俺もまだまだ若いな…。」

そして辺りをキョロキョロと見渡す。


…ベンの野郎、自分だけ部屋に戻りやがって。

「チェッ!」

口を尖らせ、まだ中身の残るワインボトルを煽る。



「貴方って人は、本当にソレがすきですね。」


いつか彼女に言われた台詞がシャンクスの耳を掠めた。




「……………ハァ、」

これは、いよいよ重症だ。
酔ってるにしろ、寝惚けてるにしろ、こんなに彼女の声がハッキリと聞こえるとは。
そんな事を考えながら、シャンクスはまた一口酒を飲み口許を乱暴に拭った。



明け始めた空からの陽がレッドフォース号を目覚めさせる。船首からシャンクスに伸びる細い影が朝を知らせた。



………………ん?影?、…………か、げ…

ゆっくりと振り返るシャンクス。
陽の光が男の視界を白く染めた。

だがそこには一筋の影。
人の形をしたその影は、



「……………誰、だ……?」

「…………。」

影がふっと、小さく笑った。

忙しく動く朝の陽が彼女の影を刻々と薄れさせてゆく。

先ずは華奢な輪郭が、浮かび上がる。

次いで、フワフワの髪。
ピンク色の頬。

口許は、小さなイタズラが成功した子供の様にあどけなく弧を描いている。

猫の様に目尻がきゅっと上がった瞳は深緑に揺れていた。

そのどれもが、シャンクスの胸に棲む彼女を形造っていた。


「…………あー……、」

ヤバいヤバい、幻聴に幻覚まで見るなんて。
そんな思いでシャンクスは自分の目を擦る。そして、もう一度確認するために目を凝らす。

「お元気そうで、何より。」

そう言ってクスクスと笑う幻覚。


「え?……え?」

未だに口をパクパクさせるだけのシャンクスに船首に立ったままの幻覚(の筈)のリツが、腰に手をあて憤慨する。

「まっ、まさか(この私を)忘れたんですか!?」






ベンが甲板に続く扉を開ける。
眩しい朝の光に一瞬目を眇める。
が、甲板で寝呆けているであろうシャンクスを流石に回収してやるかと、昨晩二人で飲み明かした方に足を向けた時、




「きゃぁぁぁあああ!」

ざっぽーーーーーーーーーーーーーーん



甲高い悲鳴と何やら波しぶきの音。


「!!!!」

驚いたベンが走り出しながらマストの上にいる見張りのクルーに叫ぶ。

「何事だ!?」

「おっ、お頭が海に!!」

見張りが指差すのはやはり、夕べ飲んでいた船首付近。ベンは船縁から海面を覗き込んだ。

すると、波紋をたてる海面の中心に人影がユラリと浮かぶのを見てベンがホッと息をつく。

「何やってんだ?あの人は。」

すると、いつの間に戻っていたのか、ラッキー・ルゥが慌てて出てきた。

「ベン!!一体何事だ!?」

ドタドタ走りながらズボンを履くものだから中々上がらない。縞々の派手なパンツが丸見えだ。
そんなルゥにも呆れながらベンが『知らん』とでも言うように肩を竦めた。




「ぶはぁっ!!」

海面から漸く顔を出したシャンクスに、ベン達が顔を向ければ、

「プハッ!!」

予想もしないもう一人が顔を出した。







「っ、っつ、リツ〜〜〜〜〜〜!?」



そんな声に顔を向けた彼女は、
正しくリツだった。
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