Dream・ゴールデンRule

□ゴールデンRule その13:暖かな君と、満月と。
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ゴールデンRule
その13:暖かな君と、満月と。



その船は宿り木にとまる小鳥の様に、静かに浜に錨を降ろした。

寄せる波も風の音も、この夜を静かに見守っているかの様な、

そんな静かな夜。


甲板ではそんな夜とは対称的な男達が大いに騒いでいた。

大量のラムを瓶ごと傾け笑いあう。
酒の肴はやはり自分達の冒険譚〈ぼうけんたん〉。

誇張された話しに、ヤジを飛ばしながら面白おかしく語られるそれにリツは表情も豊かに笑っていた。

そんなリツを横に置いて離さないシャンクスは、久し振りに満たされた感覚に満足そうに目を細めた。



「…で、彼女は一体何者なんすか?」

リツとシャンクス達の親しげな様子を横目に、比較的新人と言えるクルーが不思議そうに隣でほろ酔いのルゥに声を掛けた。

どうやら大食漢のこの男は料理に夢中で酒を後回しにしていたらしい。ベンの隣でベロンベロンに酔っているヤソップと比べるとまだまともと言えるだろう。

しかし訊ねた相手はやはりルゥ。
大量の食べ物を口に頬張りながら、う〜ん、と首を傾げながら暫く思い悩む。

彼女が何者か?

聞かれて一言で答えられる様な存在では無い。

死神で、ある日船に落ちてきた。かと思えば、あっという間に自分達の心を掴んだ不思議な彼女。

そして最後には、シャンクスの命を留め置くために躊躇いも無く自らを捨てた。

何の跡形もなく、まさに《消滅》したのだ。

あの時の彼女を想うと、ルゥは何時も胸が痛んだ。そして同時に暖かな何かがじんわりと胸に広がる。



切なさや淋しさ、

それに、感謝や尊敬の念。

とにかく、一言では言い表す事の出来ない気持ち。

だがやはり、それらを説明するにはルゥは少々役不足だったようだ。
暫く悩んだ後、実にシンプルに纏めた。

「……つまり、リツは、…お頭の《命の恩人》ってこったな。」

その一言に周りのクルー達の好奇心は益々くすぐられる結果となったが、ルゥはそんな空気もお構い無しに手元の大皿を引き寄せて残りの料理をかき込んだ。




それから後〈のち〉暫くの間、突然現れた小さな彼女が四皇まで上り詰めたシャンクスをどうやって助けたのか?

と言うのが、新人クルー達の飲みの席での話題の中心になったのは言うまでも無い。







隣に座る彼女が笑う。

ヤソップやベンの話しに頷きながら、言葉を交わす。

リツが何者だったか、知らないクルーが差し出した皿の料理を食べた時は驚かされた。

「……リツ、お前、」

それはベン達も同じだったらしく、モグモグと可愛らしく咀嚼するリツを驚いた表情で見つめながら呟いた。


そんな彼等を見ながら、コクりと嚥下したリツが得意気に笑いながら答えた。

「これ、とても美味しいですね。」

その一言に俺達の驚きの答えがあった。


飲むことも、食べることも、寝ることもしない。

人が生きていくのに必要不可欠なそれらをしない、《死神》だった彼女。

だが、今。

目の前の彼女は自分達と同じ物を食べて朗らかに笑った。

とても美味しい、と。


「そうか、……そうなんだな。」

喧騒の中で、噛み締めるように呟かれたシャンクスの言葉にリツは微笑みを返した。

彼女は人間になった。
つまり、《転生》したのだ。


と、すると黙っていないのが、やはりこの船の幹部達だ。

あれを喰え、これを喰えと持ってきては彼女に食べさせる。そして隣のシャンクスは、案の定酒を進める始末。


「おい、頭。酒はダメだ。」

「おいおい、ベン。人間なら酒の付き合いは基本だろ?」

「何が基本だ、お嬢ちゃんは飲んだことが無いんだぞ。無理させるな。」

そんな二人のやり取りに、赤い顔のヤソップが加勢する。

「ベンよ〜?誰でも初体験は有るもんだろ!もし酔っ払ったら俺が面倒見るから大丈夫だぞ?」

そう言ってリツに並々とビールの注がれたジョッキを手渡す。

「おい!いやらしい言い方するんじゃねぇ!それからお嬢ちゃんの面倒見るのは俺だ!!」

「あぁ?独り占めする気か?お頭!」

「おう!文句あっか!?」

リツを挟んでシャンクスとヤソップがいがみ合う。

「文句なら大有りだ、アンタに任せたらお嬢ちゃんがロクな大人になりゃしねぇよ!」

「そりゃテメェもおんなじだろぅが!?」

「おいおい、一緒にすんじねぇよ?俺は息子持ってる父親だぞ?」

得意気に鼻を鳴らすヤソップにシャンクスも負けじと応戦する。

「おぅおぅ、そうだったなぁ〜…、但し生まれた後はほったらかして海賊やってるがなー!」

「なっ!?テメェはその海賊の頭だろぅが!?」

どんぐりの背比べ、正に目くそ鼻くそな言い合いにベンが呆れ返る。

………二人とも同じ穴のムジナだろうが。

そんな事を思いはするが声には出さない。出せばとばっちりがくるのを知っているから。
しかし、間に挟まれたリツは我慢の限界だった。
ギャーギャーと言い合う二人を押し退けて、すっくと立ち上がる。

「煩いですよ!?二人とも!!」

そう怒鳴ったかと思うとヤソップから手渡されたビールを一気に飲み干した。

……それに、《お嬢ちゃん》呼びに戻ってるし……

そんな不満を多分に含んだ一気飲みを知ってか知らずか周りはやんや、やんやと手を叩いて盛り上がった。
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