Dream・ファントムPain2
□ファントムPain 連鎖
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「でっ、でも!海草は食べて無いんですよね!?」
聞かされた話にシロは蒼白になりながら訊ねる。
「あぁ、アイツ等も馬鹿じゃねぇ。海草は食って無かった。」
「じゃなんで…」
確かに海草は毒があるからと、あんなに注意していた。だがそれなら何故?もしかして病気なのか?
「いや、これは毒で間違い無いだろう。病気なら俺達が平気なのはおかしい。それに症状も海草に含まれる毒に似ている。」
シロの考えを読んだようにキラーが否定する。
「だが、海草の毒にしては《回り》が速すぎる。」
確かに話している間にもどんどん症状が悪化してきている。クルー達の唇は紫に変色し始め、息も苦しそうだ。
「どちらにしても長くはもたん。解毒剤がいる。」
「俺がっ!俺が行きます!」
「ダメだ!俺が行く。」
立ち上がるシロをキッドが止める。
「なっ!何言ってるんですか!?島には海軍が居るんすよ!?」
しかし、慌てたのはシロだ。出ていこうとするキッドの腕を思わず掴んだ。
「オレが海軍にやられるってのか!?」
凄むキッドだがシロも黙って引き下がるわけにはいかない。
「そうじゃ無くてっ!!キラーさんも止めて下さいよ!?」
なのにシロの声にキラーは身動ぎひとつしない。
「キラーさん!!」
シロがいくら叫んでもそれは変わらなかった。必死で止めるシロの手をキッドは引き剥がしながら言う。
「オレは、お前らみたいに知識がねぇ。何かあってもオレじゃ助けてやれねぇんだ。だからお前は船に残れ。」
「で、でも…お頭…お頭はサラさんの側に…」
シロのその言葉にほんの一瞬迷いが生じたのをキッドはぐっと呑み込んだ。
「…船に残るのはお前とキラーだ。」
そう言い切るキッドにシロはもう何も言えなかった。人を射るような視線が何も言うなと言っていたから。
「…キラー船は頼んだぞ。俺は、必ず薬を持ってくる。……誰も死なせねぇ。」
そう言って出ていく男の背中をキラーは黙って見送った。
あの男のあんな顔をキラーは見たことがあっただろうか。
獰猛な眼差しも、酷薄そうな笑みも、
以前とは変わらないのに。
何故だろう。
この男を心底信じられる。
自分の命を捧げるのに相応しい、そんな想いが沸き上がる。そしてそれは同時に自分自身の力に変わる。全身を駆け巡り血を滾らせ、魂に火を灯すのだ。
「…少し、落ち着きましたね。」
何度もボトルに水を足し、無理矢理クルー達に飲ませ続けて一時間程経った頃、少しばかり症状は改善の兆しを見せ始めていた。
しかし、毒を薄めその回りを遅らせているだけに過ぎない。解毒剤が無い限り皆死んでしまうだろう。
「サラさんの様子を見てきます。」
シロの言葉に、頼む、とキラーが頷いた時、買い出し班だった他の二人が食堂に駆け込んできた。
「大変です!!外をっ、外を見て下さいっ!!」
言うが早いかまたすぐに踵を返して今来た通路を戻っていく。キラーとシロもその後に続いた。
「っ!あれはっっ!?」
ジリジリと焼けつく程の陽射しはいっこうに衰えてはいない。まるで何事も起きていないように空は澄んだままだった。
だが街の方からもうもうと上がる土煙が、そこにいる筈のキッドに何かあったことを報せていた。