Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 拘束
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「あれはっ、」

遠くで立ち上る土煙、そこから推測するのは難しい事では無い。

「キラーさん。」

シロが腰のハンジャルを握りしめながら、静かに街を見つめるキラーに声を掛けた。




こうなっては誰かが行かなければならないだろう。普段ならキラーが行くのが当然だが、今は非常事態だ。

クルーは息も絶え絶え。
船長は不在。
しかもその不在の船長が居るであろう場所では交戦の狼煙が上がっている。

そして、今後予想される最悪の事態。

万が一、それが起こった時。

誰かが船を動かさなければならないのだ。

それにはキラーが船に居なくてはならないだろう。

街を見据えたまま、自分でも驚く程しっかりとした口調で放った言葉は隣で自分を見上げる少年に託された。



「…行ってくれるか?」

その言葉に、シロははっきりと頷いた。


「あぁっ!あれを見てください!!」

買い出し班だった一人が驚いた声をまた上げた。指差している方向はさっきと同じだが、そこに土煙はもう上がっていなかった。

「まさか、…カシラ、」

通常暴れたら手のつけられないキッド、上がった粉塵がこんなに早く収まる事は有り得ない。だからこそ、余計に不安が募ったのだろう。

「カシラに何かあったんじゃ…」

そう弱気な事を言い出すクルーにキラーが発破をかけようとした時、


「そんな事絶っ対に無いです!!」


突然の大きな声に全員が振り向いた。

「オカシラさんは、絶対に大丈夫です。」

その声の主は、さっきまで寝込んでいたとは思えない程はっきりと言いきった。

「サラさん!?」

駆け寄るシロを制してサラはキラーに詰め寄る。

「キラーさん、お願いします!私も、私も行かせて下さい!お願いします!」

キラーの派手なシャツを必死に掴んで懇願する姿に全員が唖然としていた。






「良いですか?絶対に俺から離れないで下さいよ?」

小さく言いながら振り向けば、酷く緊張した面持ちのサラがこくこくと頷く。

その様子にシロはフゥ、と小さく溜め息をついた。

………それにしても、カシラってばなんちゅう約束をするんだか…

そう考えながら、サラとキラーとのやり取りを思い出す。



「ダメだ。さっきまで寝込んでた奴が…いや、寝込んでなくても、だ。大体お前が行ってどうするんだ?何にもならないだろう?それどころか、却って危険が増えるだけだ。」

だが、理性的なキラーのその言葉も彼女の言葉に消された。


「だって!約束したんです!!」

「約束?」

「私を、殺してくれるって!…自分が死ぬ前に必ず私を殺してくれるって!!だからっ、オカシラさんは死ぬ筈ありません!それにもしそうなら尚更行きたいんです!お願いします!行かせて下さい!」


そこまで言われたらキラーももう彼女を止められなかった。






街へ行けば、それは明白だった。半壊した建物の持ち主だろうか、男が海軍から金を貰っている姿を盗み見る。


キッドは、

自分達の頭は、


捕まったのだ。



「…シロくん、海賊は捕まったらどうなるの?」

海軍駐屯所の外壁近くの茂みに身を潜めながら侵入する機会を窺う。サラが小さく訊ねたそれにシロは振り返らずに静かに返した。

「………海賊は捕まったらすぐに縛り首です。」

その言葉に彼女が息を飲むのを感じた。

「でも、頭はあの悪名高い《ユースタス・キャプテン・キッド》っす。身柄はインペルダウンに引き渡されて、それから公開縛り首。だからまだ大丈夫です。」

安心して良いのだか、なんなのか分からないが取り敢えずすぐにどうこうなる訳では無さそうなのでサラも一先ずは安心する。

「じゃあ、インぺるなんとかに行く前に助ければ良いのね?」

「…インペルダウンっす。…まぁ、はい。そうです。」

緊張感の少ない会話にシロは笑いを堪えて答える。

そうこうしている間に、さんさんと降り注いでいた太陽が水平の彼方に沈み、辺りが暗くなり始める。
シロは滲む汗を拭いながら焦りを募らせていた。

さすがに小さいと言えど海軍の駐屯所。先程から付け入る隙が全く無い。
見張りの者達の乱れぬ動きにシロは覚悟を決める。
少々リスクは上がるが見張りを数名昏倒させて侵入するしか無い、そう考えてシロは行動に出る。

「サラさんは俺が合図するまでここに居て下さい。」

そう行って腰を上げた時、


「ダメっ」

サラが腕を掴んで制止する。

「サラさんっ?」

「シッ」

人差し指を口にあてて黙りこむと、遠くで何やら話し声が聞こえてそちらをじっと窺う。

「お食事をお持ちしました。」

そう行って街の住人だろうか全員女だが4、5名が入口で海兵から検分を受けていたが、しばらくして女達は何事もなく通された。

その後ろ姿を見送りながらサラは徐に立ち上がった。

「待ってて。」

そう言ってシロが止める暇も無く駆け出して行ってしまった。

程なく戻って来たサラの手には、どこで見つけたのか大きな甕〈かめ〉が抱えられていた。中にはワインが中程まで入っている。

「ど、どうしたんですか?コレ?」

「あそこ」

窓から明かりがぼんやりと漏れ出しているのは酒屋だ。

「盗んできたんすか!?」

それにこっくりと頷くと彼女はそれを抱えたまま行ってしまう。

「ちょっ、サラさ…」

思わず少し大きな声を上げたシロに『静かに』、と目配せするサラ。

そして、入口で数分。
何やらやり取りをした後、先程の娘たちと同じ様にサラも通されて行ってしまった。

残された藪に隠れたままのシロは、

…さすが頭の惚れた人っす。

と、苦笑いを浮かべた。
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