Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 凶刃
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「オカシラ!!」


走り出したシロと、銃声はどちらが早かっただろうか。

全ては一瞬だった。

キッドに向けられた銃弾は、キッドの体を掠めもしなかった。

キッドはただ呆然と見ていた。
目の前の男の腕にぶら下がるようにしがみつく人影を。


背後からシロが駆け寄り周りの海兵達が慌てふためく。混乱に乗じてシロは一気に5人もの海兵を倒す。

それでもキッドは動けずにいた。
目の前で美しい金髪が踊る。

キッドの脳裏に浮かぶのはたった1つの疑問だ。

何故?

何故、彼女がここに?

「オカシラ!」

シロの声が聞こえている、何とか自分も動かなければ。
そう思うが身体は鉛のように動かない。

「オカシラさんっ!」

その声の持ち主が銃を手放した男と揉み合いながら何かをキッドに投げつけた。

そして再び。

彼女の声。


「キャア!」

その叫びと同時に地が揺れる。

海楼石の錠を外したキッドが能力を爆発させた。

振りかざした手が瞬く間に何十倍にも膨れ上がる。
鉄の塊と化したそれが一気に周りの者達を凪ぎ払った。

呆気に取られた中将だった、がしかし直ぐに態勢を立て直す。そしてそばに転がる女の首を鷲掴んだ。

サラの細い首を中将の指がギチギチと締め付ける。
足先は地からとうに離れ、バタバタともがくがより男の指が食い込むだけだ。

「っ、ぐっ、……かはっっ…」

「貴様、奴の女か!」

鎖を外した獣が暴れまわっているのを横目で見た中将は怒りのまま彼女を見やる。

手柄を無くしたことが余程悔しいのか、それともサラの様な女に不意をつかれたのが腹立たしいのか。

その目は血走り常軌を逸していた。

塔の上をキッドが見上げた。キッドはさらに集中した。周りの敵も、シロとの連携も頭には無い。
真っ白のまま、キッドは行動する。

まずは塔を破壊する。
そして落下するサラを抱き留めれば良い。

…それだけだ。絶対に間に合う。

右手を思いきり振り抜くだけ。



凄まじい破壊音と砂煙。
足元が崩れ始めるなか、キッドが一瞬で能力を解除し両手を広げて叫んだ。

「来い!!!」


サラは必死にもがいて態勢を崩した中将の手から逃れた。足元が崩れ始めていても恐怖も躊躇も無い。

飛べばきっと、キッドが受け止めてくれる。



しかし突然強い力で後ろに引っ張られたサラ。

振り向けば逃れた筈の男の刃が自分を刺し貫いていた。






全てがスローモーションだった。

サラの身体を刺し貫いた刃がその勢いのまま引き抜かれるのも、傾いた彼女が塔から滑り落ちるように落下してくるのも。




走り込んだキッドが彼女の身体を受け止める。

間に合った。受け止めたから無事な筈だ。

砂埃で汚れてしまった彼女の頬を拭う。

そうだ、何故こんなところに居るのか怒らなければ。



「……おい、バカ女。」

そう呼べば、きっとサラは何時ものようにシュンとするだろう、それともプリプリ怒るだろうか。


彼女は…………





ぬるりと手につく赤はキッドの色だ。
彼女の肌に良く映える。


同時にキッドの背に向けて3発の銃弾が撃ち込まれた。




「オカシラっ!!サラさん!!」








「ハァッ……ハァッ…」

暗い獣道をキッドはがむしゃらに走った。胸に小さな命を抱きながら。

シロとは途中で別れた。船を小高い山の裏につけるように指示を出した。

シロは騒ぎを起こしながら街を下っていっているようだ。お陰でキッドへの追っ手は撒けたようだった。

「アイツ、…後で…誉めてやらねぇと…」

太い幹に寄り掛かって息を整える。そして腕の中の女を抱え直す。

ぐったりとした身体はまだ暖かい。

直ぐに走り出したキッドの背からもドクドクと血が流れ出していた。
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