Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 離脱
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けたたましい音を発てて、夥しい数の鉄塊が降ってきた。
甲板に居たクルー達はみな一応に頭を抱えてしゃがみこんだ。


ドバン、


一際大きな音の後、聞き慣れた声が聞こえてシロは目を瞬〈しばた〉かせた 。


「……チッ、そこそこ痛ぇな。」


辺りに転がる銃をがしゃがしゃと踏み越えながら顔を上げたその人物に、シロは飛び付かんばかりに駆け寄る。

「お頭っ!!」

「…よぅ、」

しかしその男はシロのその声に素っ気なく返すだけだ。

そして腕に抱えていたサラを足の踏み場を確認した後ゆっくりと降ろす。


シロの嬉しい気持ちに反比例するかのような男の反応にシロが半泣きで声を出す。

「お頭〜…」

「なんだよ、うるっせぇな……キラー!」

すがるようなその声にもすげなく答えて早々と自分の右腕を呼ぶ。

「随分派手なご帰還だな。」

しゃがみ込み早くも散らばった銃を物色しながらキラーが何事も無かったかの様に答えれば、キッドが鼻で嗤った。

「いつも通りだろ。」

「…違いない。」

慣れたやり取りにキッドはニヤリと笑った。





自分には人望なんて物が無い事をキッドはよく知っている。
荒っぽく、短気。そして自分勝手な事も。

なのについ口をついて出た。
自分を信じるかどうか、そう問い掛けたのは答えが知りたかったからなのか。

そして彼女は思った通りに答えた。

いや、《応えた》のだ。

暗い夜にも決して失われない美しい瞳がゆっくりと細められ、唇は滑らかな弧を描いた。
瞬間、キッドの背筋に甘美な痺れが走る。

足を踏み出すのに戸惑いは無かった。今からやろうとしている事は試したことは無いがきっとやれる。

サラが示した信頼がキッドにそんな確信を与えた。

能力で腕に張り付かせたままの鉄塊を一旦解除すれば、途端にそれはバラけて崖を落ちていく。

それと殆ど同時にキッドはダイブした。

着地寸前で能力を発動、集まってきた物を絨毯の様に広げてそこに乗る。
しかし元はバラバラの物体だ。隙間に足が抜けそうになりながらバランスを取るが、やはりすんなり着地という訳にはいかなかった。

そこそこ感じた衝撃に足の裏側がツーーンと痛み眉を顰めて悪態をつく。
それでも、
…まぁ初めてにしては上手くいった方か、と考え直す。現に自分にもサラにも怪我は無かったのだから。




甲板には、己が船のクルー達。
キッドが最後に見た時は、殆どが青白い顔をしていた。
それが今は、勇ましく目を爛々とさせて自分を見ている。

この船の頭であるキッドの号令を待っているのだ。

「……出港だ!」

途端、男達の怒号が上がった。

海賊船が旗を靡かせ波を切る。
バタバタと走り回るクルーをキッドは背に感じながら島を眺める。

…あの医者、《ヤブ》って訳でも無かったか。小屋をぶっ壊しちまったが……もともとボロかったからな。

それに海軍お抱えならお手当てもつくだろう、

思いながら横に並んだキラーを見やれば手に大きな銛〈もり〉の様なものが握られている。

「…お前、ソレ…」

キッドの問い掛けにキラーはしれっと答えた。

「お前を待ってるだけじゃ暇だったんでな。」

そう言って顎で示した方向には、いっこうに追って来ない海軍の船。
多分船底に穴が空いているのだろう。

キラーの持つ銛の所為で。


良く見ればキラーの金髪はまだしっとりと濡れていた。

「たまには海水浴も良かったろ?」

笑いを堪えながら言ってやれば、

「お前が言うな、……カナヅチめ。」

キラーがフン、と反撃する。

それにとうとう吹き出して笑いながらキッドは歩き出したが、思い出したように振り返った。

「おい、もうしがみつかないのか?」

そうサラに向けられた言葉もどこか軽い調子だ。

「もっ、……もぅ…ダイジョブデス…」

子供のように駄々をこねた自分を思いだし、サラは赤面しながら返事をしたが声は尻窄みに小さくなった。


喉が渇いた、とキッドが発した一言に皆でやいのやいの言いながら食堂に向かう。

キッドを捕らえていた島は、もう影も見えなくなっていた。

「お頭は、水で良いですか?」

扉を開けながらシロが尋ねればすぐに返事が返される。

「アホ、酒にきまってんだろが。」

と、キッドが開けられた扉を潜〈くぐ〉りながら言う。

が、その後いつもの席に目を向けたキッドは驚きの声を上げた。





「なっっ!?何でテメェが居やがる!!」

視線の先には、キッド達に用意されているソファーで、よれよれの白衣を着たあの《ヤブ医者》が酒を瓶ごと煽っていた。
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