Dream・ファントムPain2

□ファントムPain 相愛
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怒号を上げて大砲の弾が飛び交った。飛沫を上げる度、船が大きく揺れる。

広い海で、正に三つ巴の戦いが繰り広げられていた。


歴戦の強者《四皇》赤髪のシャンクスが殺気だった海軍を引き連れ、そこに《最悪の世代》の中でも極悪と詠われるキッドを巻き込んだ形でそれは始まった。

そして運悪く、先頃海軍の駐屯地をメタメタに潰したキッド達に海軍はより好戦的だった。


そして元凶とも言えるシャンクス達は自分達より足が速い。

《レッドフォース号》は世界で一番速いと言われる程の船だ。

「お頭っ、《赤髪》がっ!!」

クルーの声に見やれば、風に帆を広げ始めるレッドフォース号。

「クソがっ!オレ達に海軍を擦〈なす〉り付ける気か!」

気を取られた瞬間、キッドに阻まれ続けていた海軍の大砲が命中する。

船は木片を散らしなが、揺れに揺れた。








『海軍です!それに、あっ赤髪も!』

それを聞いたキッドの顔が《頭》としてのそれに戻っていく。扉に手をかけ走り出したシロを追いかける為に足を踏み出したが、

振り返ったキッドは鋭い眼をしたまま、サラの唇を奪った。


「……直ぐに戻る。此処に居ろ。」

頬を大きな両手で包まれたまま放たれた短な言葉にサラは涙を浮かべながら小さく頷いた。


「キッド!!」

耳をつんざく爆発音に紛れる様にキラーが叫んだ。

キラーは必死で海面を指差している。

「……下?」

未だ揺れる船の上から、キッドはキラーの指し示した方を確認する。

「なっ!?」



大きな影だった。

キッド達の船を飲み込んでも余りある程の不吉な大きな影は、その姿を表し始めていた。
船の壁を這うように蠢いている半透明の触手はヌメヌメと光り不気味さとおぞましさを演出している。

「海王類、か?」

途端にミシミシと船体が軋んだ。動力を全て奪われガクンっ、と動きが止まった。


船が割れる



キッドは振り返りブリッジにしがみつくシロに叫んだ。


「シロ!!アイツをっ!アイツを部屋から出せ!!!」


叫んだと同時に船縁が粉々に飛び散った。同時に背後から聞こえる大砲の発射音にキッドは能力を発動させる。

が、船にしがみつくようにしている海王類には当てることが出来ない。鉄の弾は水柱を上げて海底に沈んだ。


「キッドさん!」

どんな音よりもはっきり聞こえた声にキッドは弾かれた様にそこを見上げる。そして走り込んで手を広げた。

「来いっ!」


刹那、無慈悲な一撃が二人を引き裂いた。



「きゃああぁぁぁ!!」

海王類の触手がブリッジ部分を凪ぎ払った。サラの身体は浮き上がり荒れる海に吸い込まれた。


「!!」

飛び込もうとせんばかりのキッドを数人のクルーが押さえ込む。

「離せっ!アイツは能力者なんだぞ!」

「おっ、お頭!アンタも能力者でしょうが!!」

「俺が行く。」

もがくキッドの横をすり抜けながらキラーが得物を抜いて飛び込んだ。

それを見たキッドは、一撃が当たり調子づいた海軍が連発した大砲を全て相手に見舞ってやった。


派手に殺り合う両者を尻目にレッドフォースは尚も遠ざかっていく。

暫くしてキラーが水面下から顔を出す。キラーと一緒に引き揚げられたのはシロだった。

「ごほっ、ごほっっ……す、すいませんっお頭…」

「キラー…アイツは、何処だ?」

むせるシロの背を叩きながらキッドは濡れそぼったキラーを見上げた。

「…動きが速くて、奪い返せなかった。」


「…奪う?」

キッドの問い掛けにキラーは頷きながら指を指した。

指した先にはレッドフォース号。
近くに居たクルーが望遠鏡をキッドに手渡す。


レッドフォースの甲板には自分に似た赤い髪の男。

そしてその腕にはぐったりしたままの、



「……………サラ。」

キッドが初めて口にしたその名前は、サラ自身には届かなかった。
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