Dream・ファントムPain

□ファントムPain 渇望
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その島の人口は約千人。
小さな島で人がひしめき合うように住んでいる。

海軍の駐屯地も無い為、治安も良くない。冬島という性質からか、街も全体的に鈍よりとして、退廃的だ。
賊の類いが真っ昼間から闊歩する、そんな島だった。



キッド達が本格的に上陸したのは昼もとうに過ぎた頃だ。
そしてキッドは一人で街の中を歩いていた。
寝不足のせいで機嫌が悪く、眉間のシワも常より深く刻まれている。

…チッ、寒い上にしけた街だぜ。つまらねぇ…

これで酒も不味かったら島ごとぶっ潰す、等と考えながら酒場を探す。

すると小さな酒場が見えた。
しみったれた店だったが、寒さの所為でとにかく酒を飲んで暖まりたかったキッドは、そちらに足を進めた。

酒場のドアを開けようとしたキッドに、女の金切り声が聞こえてきた。
隣の路地から聞こえるそれは何を言っているのかは分からなかったが、キッドがチラリとそちらに目を向けると、女同士で言い争っている様だ。

否、一方の女がもう一人の女を怒鳴っている。
そうかと思うと怒鳴っていた女がもう一人の女を殴った。殴られた女は地面にそのまま突っ伏してしまったが、殴った方はその上からさらに足蹴にした。

…胸糞悪ぃぜ。とキッドは舌打ちした。

とは言ってもキッドがイラついたのは、殴って尚且つ足蹴にするという行為をした女に対してでは無い。

その行為を無抵抗に諾々〈だくだく〉と受けている女に対してだ。

キッドは今まで自分を馬鹿にした者、笑った者を一度たりとも赦したことは無い。何時だってそうゆう奴らには、

『死んだ方がマシ。』

な、目に合わせてきた。(勿論その後も生かしてはおかないが。)

だから、コケにされてそのまま黙っている奴を見るとイラつくのだ。

普段ならどっちも腹立ち紛れに殺していたかも知れないが、とにかく今は寒すぎた。

そのまま無視して店に入ろうとした時、地面に伏したままだった女と目が合った。

きっとこの女は自分に助けを求めるに違いない。(勿論助ける気は無いが、)もしそうなったら流石に殺しちまうかもな、等と思いながらキッドは女の顔を見直した。



女は助けを求めたりしなかった。それどころか一瞬自分と絡んだ筈の視線もすぐにキッドを見もしなくなった。そして口許にゆっくりと笑みを浮かべたのだ。



殴られた時に切ったのか、赤く濡れたその女の唇に自分の欲がズクリと疼くのをキッドは感じた。
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