Dream・ファントムPain

□ファントムPain 邂逅
2ページ/2ページ




『ユースタス・キャプテン・キッド』

用心棒の男は確かにそう言った。

……キャプテン……

そう頭の中で反芻して、目の前の燃え立つ炎の様な男を見る。

暗い路地裏でも、彼の内面からほとばしる炎は隠せない。

煉獄の炎の様に死を飼い馴らし、罪も驕〈おご〉りも焼き尽くす赤。

血混じりの赤。

海賊とは皆こうなのか、と彼女は思う。普通なら畏怖の対象である恐しい見た目や、雰囲気も彼女には雲間から差し込む光の様に輝いて見える。

彼女にとって、目の前の男《ユースタス・キャプテン・キッド》は正に死神。

この人なら、きっと私の望むモノを与えてくれる。…それも、ものの数秒で。

キッドに銃が渡った瞬間、自分の腕を掴んでいた手が離れた。
見れば用心棒の男が俯せに倒れていた。


彼女はその瞬間、がっかりした。
これは、いつもの夢と同じ。

『私、いつの間に寝てしまったのかしら…』



彼から流れ出る血が地面にゆっくりと広がる。不吉な赤が彼女の思考をべったりと濡らし、混乱させていた。

きっと、この後は同じ。彼はボロボロに崩れて、二度と元には戻せない。
そしてそこで目が覚める。

−−−−ビシャ。


音がした方を見ると、血溜まりの中にブーツが見える。

『?』
いつもの夢とは違うそれを、彼女はゆっくりと確認する様に顔を上げた。



目の前に、美しい赤が広がる。そしてその男の言葉に彼女は支配された。


「オレと一緒に来い。ここよりずっと広い世界を見せてやる。」



−広い世界を見に行こう。一緒に。−

あの日、夢や未来に瞳を輝かせて自分の手を引く《彼》が言った言葉を思い出した。

目の前の男は、彼とは似ても似つかない酷く残忍な笑顔を見せているのに。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ