Dream・ファントムPain
□ファントムPain 波乱
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コンコン、と小さく聞こえたノックの音にサラはピクリと肩を震わせた。
ノック……?と、またしてもノックの音。
サラはどうしたものかと暫く考えたが、3度目のノックに扉を開ける事にした。
恐る恐るドアをゆっくり開けてみれば、およそ海賊とは思えない風貌の少年が立っていた。
「よかったぁ。起きてたんっスね。」
これまた海賊とは思えない笑顔で少年が話し掛けてくる。
「あ……はい。」
それに多少驚きつつ返事をすれば、中いいっスか?と、部屋に入って来た。そのまま、テーブルに向かい食べ物の乗った皿を置いた。
すると今度はサラを振り返り、
「どぞ、食ってください!キッドの頭からです。」とソファに促された。
戸惑いつつもソファに腰掛ければ、少年がカップに紅茶を注ぎはじめる。
「はいっ!熱いから気をつけて下さいね。」
「…ありがとうございます。」
改めてテーブルに視線を落とせば、そこには実に美味しそうな食事が並んでいた。
干し葡萄のスコーン、カリカリに焼かれたベーコンとスクランブルエッグ、まだ湯気の上がるスープ、それにヨーグルトに蜂蜜漬けのイチヂクが入ったデザートまで。
「お…美味しそう。」
思わず零れたサラのその言葉に少年はより一層笑みを深くした。
「ありがとうございますっ!そう言って頂けて嬉しいです。」
「これ……あなたが?」
「はいっ!あっ…名前!僕…いや、俺、シロって言います。」そう言って目の前の少年はテヘへと、はにかんで手を差し出してきた。
それについつい釣られてサラも微笑み返しながら立ち上がり、少年に握手しながら自己紹介する。
「私はサラ。」
二人して、ふにゃらと笑い合う。海賊とは思えぬやり取りにサラは益々この少年が何故ここに居るのか判ら無くなる。
尋ねるかどうか、なんて考えている時《それ》は突然起こった。
今まで平行だと思っていた世界が急に傾き、足が床から離れる程の突然の揺れに、慣れないサラは対処出来ずにそのまま床に倒れ込む。
しかし思った程の痛みが無い。恐る恐る目を開けると、シロと名乗った少年を下敷きにしていた。
「…痛てて……大丈夫ですか〜?」
何ともまの抜けた声だったが、その両腕はサラを守るように背に回されている。
そうこうしている間にも船は左右に振り回されでもしているのかと思う程に揺れて、体制を立て直す事もままならない。
バタン!!
扉の開く音に振り返れば、外で光る稲光に燃えるような赤い男がこちらを睨みつけている姿が浮かび上がった。