Dream・ゴールデンRule
□ゴールデンRule その1:ベン・ベックマンはツイてない。
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「………ん?」
見上げた空に動く影が一つ。瞬間シャンクスが起き上がり、船首までダッシュする。
「鳥、だぁぁぁーーーー!!!」
叫んだと同時に覇気を飛ばした。
何事かとシャンクスを見ているヤソップと、鳥ごときに覇気まで使うかと呆れているベンを尻目に空を渡る影がこちらに急降下し始める。
キャッチしようと両手を広げたシャンクスが何やら急に慌てだした。
「う、うわっ!!ちょっ、やべぇ!!」
慌てながらも甲板を右往左往し無事キャッチ出来たようだ。
同時に、ボシャーンと、海面が水飛沫を上げた。
どうやら鳥は二羽居たらしい。一羽は海に落ちてしまったのだろう。
ヤソップがやれやれといった感じで船縁から網を下ろし回収にかかる。
そしてもう一羽をキャッチしたシャンクスの後ろからベンが声を掛けた。
「………おい、頭?どうしたんだ?」
ゆっくりと振り返ったシャンクスの腕の中の《モノ》を見て、ベンも動きを止めてしまった。
「……………………。」
「……………………。」
「………食うのか?コレ。」
「………………知るか。」
やっと出た言葉がそれか、とベンが本気でこの船の行く末を心配したのは言うまでもない。
シャンクスの腕の中には黒々とした羽を持つ、
《鳥》
では無く、
《女の子》が居た。
動かないその《女の子》をそっと甲板に下ろし、シャンクスはその頬を恐る恐る突いてみる。
ふにっとした感触は紛れも無く《人間》のそれだった。
白い半袖のカッターシャツに黒いリボンタイ。
ブカっとした黒いパンツにサスペンダー、丈は踝〈くるぶし〉の上でロールアップされている。靴は紐で結ぶタイプの革靴で、覗く足首が可愛いらしい。ふわふわの綿菓子みたいな髪の毛がピンク色の頬を擽っている。ぷっくりした口元も頬と同じピンク色だ。
とにかくその背に生えている羽以外は全く普通だ。
そう、《羽》以外は。
どうしたものかと、ベンも横たわる女の子の側にしゃがみ込む。向いでは何やら気に入ったのかシャンクスがまだフニフニと頬を突いている。
「おい、頭。やめろ。」
そう言って止めようと手を出した瞬間、パチリと女の子が目を開けた。
眼前に伸びてくるベンの手に驚いたのか真ん丸の瞳が零れそうだ。
ベンが何か言い募ろうとするが時既に遅し。突然女の子がベンの腕に噛み付いた。
しかしそれに声を上げたのは、噛まれた当の本人ベンでは無い。海から引き揚げた鳥を片手に戻ってきたヤソップだった。
「ぎゃ〜〜〜〜!ベンが食われてる!!」
慌てて鳥を放りだし、銃を構える。
が、ベンが片手でそれを遮る。
「おい、ヤソップ!落ち着け。」
言いながらベンは今だに自分の腕を噛んでいる女の子を守る様に背後に隠す。
「お前は落ち着き過ぎだ!」
焦っている割には的確なツッコミを入れるヤソップ。そして、その隣では腹を抱えて笑っているシャンクス。背後では自分の腕をガジガジと噛み続けている女の子。そしてそんな子を庇うために、向けられた銃口に身を晒している自分。
…一体これは何の悪戯だ、とベンは身の上の不幸を恨んだ。