Dream・ゴールデンRule

□ゴールデンRule その4:人間は思ったより優しい生き物ですね。
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「お?お嬢ちゃん。来たのか?ま、遠慮せずに入れよ。」

ニッカリ笑っておいでおいでしているシャンクスに少女は呆れた。


なんて呑気な男なのかと。
もしくは何も考えていないのか。
リツが見る限り後者にしか見えない。

だが、興味があるのも事実だった。

彼女が今まで見てきた人間の中で、シャンクスの様な反応をする者は居なかった。
否、むしろ反応では無く、無反応だ。

リツの人間嫌いは、死んだ者、或いは死に逝く者達のどうしようもない言い掛かりや、身勝手な理屈、粗野で粗暴な振る舞いを見てきたからだ。

死んで尚、悔い改めず、自らの行いを振り返らない人間は愚かとしか思えない。
人間に与えられた魂は神に祝福され愛が溢れているのに、それに気付こうともしない憐れで身勝手な存在。

だが、目の前で笑う男は怨み言〈うらみごと〉の一つも言わない。それどころか、職業柄何時も歓迎されない《死神》のリツを手招きしているのだから驚きだ。

「…どうしてです?」

だから聞きたくなる。知りたくなる。

「ん〜?」

…このだらしの無い男の事を。



「どうしてそんなに受け入れる事が出来るんです?」
足の踏み場の無い部屋をリツがフワリと飛び越えてシャンクスがどっかり腰を下ろしているベッドの側まで一気に飛ぶ。
まさかそんな動きをするとは思わなかったシャンクスは驚きながらも咄嗟に両手を広げた。
しかしリツはシャンクスの目の前でピタリと止まり、そのまま浮き続けている。

「…………………。」

「…オォ、そんな事も出来んのか〜?」
飛び込んでくるリツを受け止めようと広げた両手をそのままにシャンクスが楽しげに笑っている。

リツにしてみればシャンクスのこういう所が理解出来ないのだ。

「……どうしてなんです?」
先程と同じ質問をフワフワと浮きながら投げ掛ける。

浮いているままのリツを見ながらシャンクスは当然の様に答えた。

「お嬢ちゃんが空から落ちたのは俺の所為だ。それで仕事をしくじったってんなら、それも俺の所為だ。それに此処は海のど真ん中で、…」

そこまで言ったシャンクスが手を伸ばす。
伸ばしたかと思うと浮かんでいるリツを引っ張り、ボスン とベッドに引き下ろす。

両手を押さえられベッドに縛られたリツをシャンクスが上から覗き込む。


「……………、お嬢ちゃんみたいな可愛いのを放り出すなんて外道な真似出来んだろう?ん?」

「……死ぬんですよ?貴方は。」

冗談みたいに答えるシャンクスにリツは真剣な表情で返す。

「…………。」

「…………。」

そのままの態勢で暫く見つめあう。

くりっとしたリツの瞳は近くで見るとグリーンだと分かった。木々の深緑を映す静かな湖の様な深いグリーン。
そしてそのまま吸い寄せられる様にシャンクスがリツにゆっくりと顔を近付けリツのふっくらとした唇、


は、素通りして顔の横に頭を埋める。

「………、腹、減った………。」

吐き出された情けない声にリツが自分に乗っているシャンクスの体を押し返せば、そのままごろりと横に転がった。
そんなシャンクスを見下ろしながらリツは、そう言えば、とさっきまでの宴を思い出す。

「………何も食べていませんでしたね。空腹なら食べればいいじゃありませんか。」

宴ではシャンクスは酒は飲んでいたが、肉には手をつけていなかったのを思い出す。

「うちには、大食いが1人居るからな。」

そう言って苦笑いを浮かべるシャンクスにリツは続ける。

「貴方は、仮にもこの船の船長です。それにあの鳥を捕まえたのも貴方です。食べる権利は貴方に一番あるでしょう?」

「…そうだな、」
何が可笑しいのかシャンクスは、フッと笑みを浮かべながら起き上がりリツのふわふわとした頭をガシガシと乱暴に撫でた。

「っ!!何するんですか!」

ペシリと叩き落とされた手を残念そうにしながらもシャンクスはリツに答える。

「あいつらを楽しませてやる、それに腹も満たしてやる。どっちもやらなきゃならねぇのが、《船長》の辛いところだ。」

そう言って、辛いなんて思ってもいない顔で笑った。


そしてまた、ごろりとベッドの上に転がったシャンクスにリツは小さな声で呟いた。


「人間は思ったより、……」

「ん?」

「……いえ、人間は思ったより、不憫な生き物ですね。」

「そうだな、今は特にな。腹が空か無ぇお嬢ちゃん達が羨ましいよ。」

言ってうとうとしだしたシャンクスは、そう時間が経たない内に寝息をつき始めた。


……………人間は思ったより、優しい生き物なのかもしれません。

先程飲み込んだ言葉を心の中で呟く。そして目の前で寝ている男を見つめた。



………それにしても、素性の分からない者を目の前に平気で寝てしまえるとは、やはり呑気な男だとリツはやっぱり呆れた。
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