Dream・ゴールデンRule
□ゴールデンRule その5:黄金律は神への方程式
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昨夜とはうって変わった眩しい海にリツは目を細めた。
どこまでも広がる果てない大海原。
水面は日の光に煌めいて、渡る風は優しい。
そのどれもに神の息吹を感じた。
神聖な朝の空気を深く吸い込んだ時、およそ信仰心の欠片も無いような男達が楽しげな声を上げて笑った。
「スゲーじゃねぇか!ルゥ!やったな〜!」
「ま、俺にかかればこんなもんよ♪」
山盛りの新鮮な魚の前で太鼓腹の男がニッシッシ、と得意気に笑っている。
しかしそこでリツは昨日の宴で男が魚嫌いだと聞いたのを思い出した。
「魚嫌いの貴方が、『釣り』ですか?」
後ろから声を掛けられて、魚の周りを囲んで騒いでいる男達が振り向いた。
「お?お嬢ちゃんか!早起きだな♪」
それに今更かと、訂正もする気の無いリツが、えぇまぁ、と適当に流す。
「…それより、そんなに釣って食べきれるんですか?」
「おぅ、まぁ大丈夫だろ?食べるのは俺じゃ無いけどよ。」
照れくさそうに笑うルゥを見てリツはそれが誰の為なのかを理解する。
昨日はシャンクスが皆の為に、そして今日はルゥがシャンクスの為に。
『……良いかい?リツ。自分がして欲しい事こそ人になしなさい。また欲しい物こそ、人に与えなさい。それがお前の名の由来《黄金律》だ。黄金律は、神が人に与え給うた希望であり、赦しなんだよ。黄金律こそ………』
………黄金律こそ、……
あの時、あのじい様は何て言ったんだったか。
一時思い出すのにぼんやりしていたリツだったが、シャンクスの声に引き戻された。
「うおっ!めちゃくちゃ大漁じゃねぇか!こりゃ宴だな♪おーい、お嬢ちゃんも見てみろ。」
無邪気に笑うシャンクス達にリツはげんなりした。
「……一つ宜しいでしょうか?」
「おう、どうした?」
リツの問い掛けにヤソップが返事を返した。
「私の名前はリツです。何度も言いますが、『お嬢ちゃん』は止めて下さい。大体、物の名前には、それぞれ理由や由来があるんです。そして私はそれを誇りに思っています。」
「……………んな、硬いこと言うなよ。俺達の仲じゃんか〜!」
そう言ってニッシッシと難しい話が苦手なルゥが笑うが、リツはピシャリとはね除けた。
「一体どんな仲だと云うですか?私の名前はきちんと呼んで貰います。私の名前にも素晴らしい由来があるんですからね!?」
そして続けて由来を話そうとしていたリツに、意外な人物が言葉を挟んだ。
「…黄金律。」
声のした方をリツがハッと見やれば、そこには船縁に凭れたシャンクスがいた。
「……………今、何と?」
「黄金律のリツ、だろ?」
「………黄金律??なんじゃそれ?」
相変わらず話しに着いていけないルゥがベンに視線を向けるが、ベンは肩を竦めるだけだ。
どうやら《黄金律》なるものは、ここに居るシャンクスとリツだけが理解しているようだ。
「お頭、黄金律って……」
「ま、小難しい話しは止めて飯にしようぜ?腹減って死にそうだ〜!」
そして、甲板ではあっという間にいつもの宴が始まっていた。
リツは、昨晩と同じように舳先に飛んだ。そして陽気に笑うシャンクス達を振り返る。
《黄金律》、そう言ったシャンクスの瞳を思い出す。
あの男は、思えば始めからそうだった。
普段は何も考えて無さそうなのに、ふとした瞬間全てを知っているような、そんな瞳をする。
そしてリツはあの時の老紳士の言葉を思い出した。
『………黄金律こそ、人が神になり得る唯一つの方法。』
ならば、自然にそれをやってみせるあの男達は、この《人の世》で最も神に近しい存在という事か。
「……黄金律は神への方程式。」
呟いてリツはもう一度彼らを振り返り見た。
馬鹿みたいに魚にがっつきながら、朝から酒を煽る男達。
どう見ても、ただの酔っ払いでは無いか。
「…………………フッ、フフ、アハハハハ!」
突然声を上げて笑い始めたリツを、シャンクスは嬉しそうに見つめ、そしてニッカリと笑い手招きした。
「…馴れ合うつもりは無いですよ。」
釘を刺しながらもシャンクスの隣に座るリツの頭をシャンクスがわしゃわしゃと撫でてキレられたのは言うまでもない。