Dream・ゴールデンRule

□ゴールデンRule その6:祈る心に神は宿り、甘い花は夜に咲く。〔前編〕
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「で、何故私がこんな格好を?」

リツが目の前で満足げに頷いているシャンクスに冷ややかな視線を投げ掛ける。

「まぁ、まぁ。郷に入れば郷に従えって言うじゃねぇか!」

そんな視線も痛くも痒くもないのかシャンクスが笑って見せるが、リツは着せられた《花娘》とやらの衣装に少々、いや多分に居心地が悪い。

「良く似合ってる。」

ベンが煙草を吹かせながら褒めればリツがスカートを気にしながら、そうですか?と照れた様子を見せる。

「おう!すげぇ似合ってるぜ!」
シャンクスが被せて褒めたがリツはすでに街の広場に向かって歩き始めていた。



「………俺の扱い酷くね?」

シャンクスの問い掛けに皆呆れた様に肩を竦めてリツの後に続いた。



広場は港の比では無い程の賑わいを見せていた。

立ち並ぶ露店はどれも目新しい物ばかりだ。店主の人種も様々で、その様々な人々が所謂故郷の郷土料理を売っているからあちこちから良い匂いが立ち上っていた。どれもこれも実に旨そうだ。
その証拠に既にルゥは姿を消している。どこかで食べまくってでもいるのだろう。

街は正に、おもちゃ箱をひっくり返した様なお祭り騒ぎだった。

暫く軒を連ねる露店の店先を冷やかしながらぶらつく一行だったが、俄〈にわか〉に変化が起き始めていた。

「あっ、あれは何ですか?凄く綺麗です!」

声を弾ませてシャンクスに振り返ったのはリツだ。

「ん〜?ありゃ髪留めだな。」

「カミドメですか?色んな形が有るんですね!素晴らしい細工です。」

そう言って、色々な物を手に取っては珍しそうに眺めている。
どうやら彼女は思ったよりも好奇心旺盛なようだ。いつもは見た目に反してかなりクールに装っているが、実は違うらしい。

シャンクスが着せた花娘のスカートが彼女の弾む様な動きに合わせて翻〈ひるがえ〉る様〈さま〉に目が離せなくなってしまう。リツから聞かれる様々な質問に答えてやれるのも、その答えに反応するリツを見るのも何だか異様に愉しいのは、きっと娘が居る様な気分だからだろう、とシャンクスは自分を納得させる。



「………お頭、鼻の下が伸びすぎだろ。」

ベンの呟きにヤソップが深く頷いた。

「だな。締まりのねぇ顔しちゃって、まあ。」

言って二人はそっと愉しげなシャンクスとリツを眺めた。


…だが、忘れるなよ?お頭。あの子はお頭の、《死神》なんだぜ。

そう一人ごちてベンは手放しでは喜べない気持ちを煙草の煙と一緒に呑み込んだ。



「あっ、」

「お?」

「あぁぁぁぁぁぁあ!!」
「おぉぉぉぉぉぉお!!」

出会い頭で向かい合ったシャンクスと、もう一方の男が同時に声を上げる。
リツやベン達が視線を向ければそこにはオレンジの帽子が目を惹く青年が立って居る。

「エースじゃねぇか!!」

嬉しそうにシャンクスは笑いながらその青年の肩を叩くが、エースと呼ばれた青年の方は嫌そうな顔をしているのが対照的だった。
そしてそのすぐ後ろから来ている男がそんな二人を見て声を上げた。

「げっ!!」

こちらも嫌そうな顔をしている。奇妙な髪型の男は腹の辺りに何やらマークが描かれている。

「おう!マルコじゃねぇか!やっと俺の船に来る気になったか!」

「なって無ぇよい、いい加減にしろい!」

「心配すんな、エースも纏めて面倒みてやるよ〜!」

「しつっこいおっさんだな!マルコも俺もそんな気ねぇよ!今日は先発隊で、偵察に来ただけだ!」

「なら、酒でも飲もぉや。その辺の話をじっくりとだな…、」

「だから、うっせぇ!」

「ほっとけ、エース。行くよい。」

そう言ってシャンクスの話を遮り、エースを連れてマルコが歩き始める。通り過ぎる間際にベンが二人に声を掛けた。

「いつもお頭が済まねぇな。」

二人はベンをチラリと見て軽く目礼して行ってしまった。

そんな二人の背に向けてリツが小さくお辞儀をして見せた。

「…エースさん、ですか。まだ、お若いのに。」

「?知ってるのか??」

隣でシャンクスが不思議そうに問い掛けたがリツは、いえ、と小さく首を振るだけだった。
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