僕がこんなに振り回されるなんて思ってもみなかった。
眼鏡をかけて、服にも無頓着。髪は何年も前から同じヘアスタイル。
正直言えば、君なんて全く僕のタイプじゃない。
全く僕のタイプじゃないんだ(大事なことだから2回言う)。
なのに何でこんなに気になるんだろう。
僕がこんなに気を揉んでいるのに、当の本人は僕の目の前でユノヒョンと楽しげに話している。
「くっそ…」
スタジオの壁に力なくもたれかかる。
何がチェガン・チャンミンだ。
今の僕はただの弱虫でヒョロヒョロマンネじゃないか。
なぜか無性に泣きそうになり、スタジオをあとにする。
足を引きずるように廊下を歩いていると、知り合いの綺麗な女優さんが声をかけてくれる。
「チャンミン!今日は何?撮影?」
「スチール撮影で来てて。今日もお綺麗ですね。」
「ふふふ…ありがとう、また飲みに行こうね!」
彼女はヒラヒラと白魚のような手を振り歩いていく。
世の中にはあんな綺麗な人がいるのに。
何であんなのが気になるんだ!
「チャンミーン、チャンミンやーい。」
来た。僕を探しに。
このままどこかに隠れてやろうか。
「いないなー…。」
どこ探してるんだ。そんなベンチの下にこの180超の体が入るわけないだろう!
「隠れてないでー、出ておいでー。るーるるるるー!」
僕はキタキツネじゃない!
イライラが頂点に達し、ベンチに乱暴に座ると、その下を覗き込む彼女の前に長い足を投げ出した。
「あー、チャンミン見っけ!撮影始まるよー。」
ふわふわと笑う彼女にげんなりしながら立ち上がり、大股で歩き出す。
「チャンミン、チャンミーン、ミンミーン!」
「セミですか僕は。」
「うふふ…。」
眼鏡の奥から僕を見つめてくる。
彼女の瞳に、僕はどう映ってるんだろう。世話のかかる我が儘な弟?それともただの仕事仲間?
「ユノが変なこと言うの。」
「は?」
「チャンミンが私の事好きなんじゃないかって。」
「…!」
ユノヒョンめ…!人の事には無駄に敏感だな!自分の事になると超がつくくらい鈍感な癖に!
「そんなわけないじゃんねぇ、チャンミンの面食いは昔からなのにー!」
彼女はケラケラ笑う。鈍感なのはお前もか!
「ホントだったらどうするの?」
「へ?」
「僕がホントに君を好きだったらどうするのって聞いてるの。」
「…うーん、ちょっと考える、かなぁ。」
ちょっと考えるって何だそれ。熟考しろよ!
「さー!冗談は終わりにして撮影ー!ファイティン!!」
彼女は背中を両手で押してくる。
全部冗談で終わらせるつもりか。ふざけんな。
これは僕の、彼女を手に入れるまでのお話。