短・中編置き場

□狼の恋し方。
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先公の放送が終わり生徒は騒ぎ続けるが睡眠妨害にならない程度だった為眠りに入っていた。眠りに入れば此方の物で俺は中々起きないと自負している。気が済むまで眠りたい質だ。
妨害されればそりゃあ


「東雲君やっと起きたね、さっきぶり」
「死ね」


不機嫌全開。
開ききれて無い細目で睨みつければ大概の奴らは怯んだり脅えて逃げるがこの先公には通用しない様でずっとふわふわにこりと笑っていた。


「暑くない?」
「るせぇ」
「飲む?」


頬に無機質な物が頬にピタリと当てられた。見れば炭酸のペットボトル。持ち歩いたのか流石に冷たくないしボトル自体に汗が少し流れている。これは多分、俺に渡す予定だったジュースだ。

ならば遠慮は要らない、身体を起こし苛立ち混じりに無言で奪い取りキャップを捻ればカチッと鳴る。
ボトル内に空気が加わり炭酸がシュワッと上がる。

それは大量に、勢い良く。


「……っ!」
「あーあ、やっちゃったね」


勢い良く上がった炭酸の泡は手と服に撒き散らされ容量の3分の1が外へ飛び出した。
ポタポタ指から伝え落ちる炭酸。勿体ない、指を舐めたら甘い。どうしたものか、べとつくシャツとズボンが気持ち悪い。
この苛立ちを目の前の先公にぶつけたい、一発や二発じゃ治まらないと思が。


「し、東雲君、言いにくいんだけど、」
「あ゙?」
「その体制で溢すとね、ズボンの染みの位置的にね、恥ずかしい事になってるんだけど」


俺から顔だけ反らし視線が下降したその先を俺も辿った訳で、この歳では絶対にしたくない、したと勘違いされたくない事態になっていた。

咄嗟に目が見開き全身血が引き先公を押し退けダッシュで中庭の水道に向かい蛇口のホースを掴み思いっきり栓を回す。水が出てると即自分の服全体にぶっかけた。

水が、温い。


「最悪っ、」
「好い男になってるよ」
「は?」
「絞るの手伝うから脱いで」
「歩いてりゃ乾く」
「風邪引くよ、寮に戻って着替えた方が良いし制服はクリーニングに出さないとね」
「平気だ」
「ほら早く!びちゃびちゃだとマスター(寮夫)に怒られるよ?」


ね、

一押しの一言に伸ばされている手。先公の顔は断れない、不本意にもお願いしたくなる様な厭らしくない笑みを浮かべている。
何だ、この先公は……。


「今はまだ授業中だし木の影に隠れてズボンを絞れば良いよ」
「誰がするか」


とりあえずカッターシャツとTシャツを一緒に絞り開いてバタバタ上下に振る。ズボンは気持ち悪いが裾を捲り上げただけに留めておく。

先公が俺の鞄を持って後ろから付いて来る。
それは笑を絶やさずに。
この先公凄いが怖いな。
と、言うか部屋まで付いてくる訳じゃ無いよな、まだ授業だって有るだろうし。


「おい、授業は?」
「受け持っているクラスはもう無いから大丈夫」
「あっ、そ」
「東雲君好い背中してるね、今度おぶって欲しいな」
「あ゙?」
「冗談だよ、でも好い背中してるのは本当」


羨ましい、

それに俺は相槌も返事もしなかったから会話が無くなった。
有るのは照りつける太陽と歩く俺達の音だけだった。


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