暮古月学園

□死神様
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片腕を空へ伸ばしデジタルカメラを構える。

じっと液晶画面に映る魅せるように咲き誇る桜を眺めているだけでシャッターを押す気は無い。
師に言われた言葉が押す指を止めていた。

こんなにも綺麗な桜を写真に残したいと思うのに。

俺が撮ってしまったらその価値が無くなってしまいそうで、怖い。

春風が吹き花びらが舞う。

花びらがレンズに張り付き画面が暗転した。思わず腕を下げレンズに指紋が付かないように慎重になって花びらを除く。


「君、新入生?」
「お、俺?」
「そう君。カメラ好きなのか?」
「コレは、その」
「見ても良いか?」
「ちょっ、」


見ず知らずな長身の先輩らしき奴にヒョイ、とカメラを奪われ手を高く上げながらメモリーに入っている画像を順に見られる。

勝手に見るな、返せと手を上げるが届かない。ジャンプをしてもヒラヒラと躱されてしまう。

悲しい事に俺は男子の平均身長も無い。ついでに言うと高1の平均身長は約170だ。俺か?5センチ足りてない。成長期?終わってるよ。笑えばいい。


「いい加減にっ、」
「どれも凄いが建物と植物ばかりだな」
「……」
「好きなんだな」
「まぁ、」


人を撮るよりかは、
そう言い掛けたが止めた。

カメラも返ってきたし、そろそろ入学式も始まる。

早い事この先輩?から離れたい。
しかし簡単に思い通りにはいかず、俺の両肩はガシリと力強く掴まれた。


「その腕に見越して新入生、報道部に入らないか?」
「は?!」
「君なら発揮出来る!考えといてくれ!」


輝く笑顔と白い歯に呆気に目を奪れ手中にギュッと紙を握らされた。先輩?は疾走と去って行く。

後ろから先生が誰かに怒鳴り散らしているのが聞こえる。きっとあの先輩?にだ。


「俺、なら」


呆然と握られされた紙を見つめる。
初めて、言われた。
あんな事言われたら期待されているようで嬉しいに決まってる。


「……よし!」


紙を折り畳みポケットにしまう。

もう一度カメラを片手に桜をレンズに映しピントを合わせシャッターを押した。

また、1から頑張ろう。

好きな時に構えて、好きなだけ映して、楽しく撮ろう。

俺は単純だ。
言葉の1つでコロリ転がされる。

新しいブレザーの制服にカメラをしまい入学式と書かれている体育館に向かう。

何故だろう、ただ魅せるように咲き誇っていると感じていた桜が新入生を暖かく歓迎し、花びらと風が一緒に祝福の舞踊している様に見えた。

うん、言い過ぎたと思う。
恥ずかしい。

取り敢えず、見方が少し変わった。と言う事にしといてくれ。


体育館に入りパイプ椅子に座って時計を見れば集合予定時間の10分前。

もうすぐ入学式が始まる。


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