暮古月学園

□漆黒の招待状
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熱は引いたが念のため学校は1日休んだ。
昨日のお粥を焦がすという異形を成した香取に不安が拭えず強先輩が晩ご飯を作りに来てくれた。心配性なのだろうか?今晩は俺が作る予定だったのに。

メニューは無難にご飯と味噌汁と野菜炒めだった。うん、美味しい。松下家の嫁に?行きませんから。美味しくても行きませんから!

松下強による胃袋掴もう作戦は散った。


「そう言えばー変なの流行だしたよー」
「なんだ?」
「偽物シスター」
「……下心が見えるな」
「青野キレる寸前でーもー大変」


香取が言うにはお尋ね者のシスターに変装して食券や商品券、生徒会お手伝い券欲しさにワザと自ら名乗り上げたり変装したシスターを連れてきて仲間と山分け等をしようとする生徒が出てきたらしい。

青野は始め自らシスターが現れたとき驚いたが誰を犯し保健室の前の廊下でどうやって姿を消しているのか色々問いつめるとボロが出る。トドメにどんな処罰をするか言うと謝罪して逃げるんだそうだ。

そういう生徒が急上昇中らしい。2年生の先輩達が帰ってきたら更に増えるかもしれない。

本物のシスターが見つかるか青野の胃に穴が開くか。どちらが先だろうか。


「そう言えば俺が見た白のシスターは?」
「発表していない。目撃した生徒も少ないし余計混乱する。風紀委員がな」
「それにーまだ何もしてないしー特に問題なーし」
「そうか」


黒のシスターの様に問題は起こしていないのか。この先も起こさなければ良いのだが大抵問題は起こる気がする。


「廃堂になったのは何時から?」
「ほらー死神様の時男女の恋愛のもつれ事件の年だよー聖堂で殺人を起こして流血したでしょー清めたとしても一1度は穢れた場所だからー生徒も誰も集まらなくなってー取り壊す費用も無くてそのまま放置してたらー今でも残っちゃったーみたいなー」
「手入れされず雨風に打たれて外装、内装は危ないらしい。だから立ち入り禁止になっている」
「なのに無人で鐘が鳴ったりするのか……」
「理由は不明。だから七不思議の1つとなっているんだ」


長い間使われていなかったのか。今じゃ廃堂の周りは緑が覆い茂ってるし不気味だ。幽霊が出ても可笑しくない程暗い。夏は蚊と蝉の音が酷い。虫好きで採取しに入る奴もいる。よくよく考えたら焼却炉で焼き芋を焼いていた用務員のオッサンがいたな。立ち入り禁止じゃないな廃堂付近。


「以外と中は使えるようになっていたりして」
「んー?」
「映画やドラマみたいにさ、一見使われていない様で実は一部組織が管理して使用しているとか!」
「学園をー裏で支配するー裏組織ーその名は」
「二人揃ってシスキュア!」
「悪役なのか正義の味方なのか分からんな」
「悪役かなー」
「恥ずかしくなってきたからこの話広げるの止めよう」
「えー」
「ご飯冷めるぞ」


この話題は止めて食べる事に専念しようとしたのだがまだ話は続く。


「行ってみよー!廃堂の中ー!」
「香取お前……」
「止めておけ。廃堂の入り口は植物の蔓が堅く閉ざしているしたどり着くまで大変だからな」
「この前羽山とー通路を通ったときー見たんだよねー入れそうな窓をー」
「羽山と?詳しく話して貰おうか」
「羽山の部屋がー荒らされた日にー……」


香取は食べながらツラツラとあの日の事を話す。使われていた焼却炉、安納芋の自称用務員のおじさん、秘密らしいが茂る森にある人工的に作った草道。その途中で入れそうな窓を見つけた事。よく周りを見ているな。

香取は良ーでしょ?と強先輩に訴えかけるが強先輩は真剣な顔つきでいる。無言の肯定ならぬ否定だと感じた。案の定強先輩の口から

「そう言う事があり、見つけたとしても駄目だ。何かあったら責任とれん」
「大丈ー夫大丈夫!」
「そう言って行く奴に限って帰ってこなかったり問題を連れてきたりする」
「そんな事ー俺は無ーいよ」
「駄目だ」
「ならー俺と部長と羽山でー行きませんかー?」
「香取!」


強先輩が怒鳴った。初めて見たと思う。普段優しい人が怒ると威力がある。俺に向けられていないのに涙目になってきた。
怒鳴られた香取は引くもんかと強先輩を真剣な目でじっと見ている。強先輩に駄目だと言われても引かない以前に香取がこんなに拘るのは珍しい。ちぇーと言ってふてくされる方が香取らしいと思う。


「香取、お願いだから行くな。俺が1年の時、先輩が廃堂に侵入して全治3ヶ月の骨折。許可無く侵入したのが上にバレて停学をした」
「……」
「そして先輩は廃堂に入った時のことを言わなかった。言えなかったのかもしれんし記憶が飛んだのかもしれん。微妙な反応しか返ってこなかった」
「尚更、行きたいですね。其処に何が有ったのか、上の処罰も厳しすぎる気がしませんか?」


上の台詞、俺じゃないからな。香取と強先輩の掛け合いだからな。丁寧モードの香取だからな!俺は空気だ。けど、香取は幾ら駄目だと言われても侵入する。そして、それに俺が巻き込まれる。見えるぞ、俺が巻き込まれる未来が。


「俺も当時気になって調べたが何もなかった。解らず終いだ」
「それは部長が力不足なだけですよ」


さらりと失礼な事言いやがった。香取怖いもの知らずか?自信有り過ぎだろ。


「部長が何と言おうがあの廃堂調べます」
「部長命令だ。廃堂の調査は禁止する」
「……」
「……」


張り詰める空気。冷める味噌汁。
ご飯を食べたいのだが空気的に無理だった。


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