暮古月学園

□香取一佐+エピローグ
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羽山が目覚めた後。
屋上には白い息を吹かす香取がいた。


「待たせたな」
「いえいえーそれよりー何ですかー?金沢せんぱーい?」
「本当か嘘か教えて欲しい」
「なーに?羽山と身内の事ー?」
「いや、それじゃない」
「?」
「お前、二年に上がらずに学園から去るって話だ」


フューと冷たい風が吹いた。

香取は一瞬考え、金沢を見るとにこっと笑った。


「俺の周りを調べてる奴がいるなって思ってました」
「僕だと解っていたから泳がせていたんだろ?」
「はい。でも、その情報は何処で?」
「たまたまだ」
「そうですか……本当か嘘かはたまたま聞いた通りです。それしか言えません」
「準はいいのかよ」
「宜しくないです。ヘタレムッツリ野郎なんかに渡したくありませんでした」
「おい、それって松下先輩の事か?ヘタレムッツリ野郎って……」
「でも、約束ですから……仕方有りません」
「……」
「ま、ラストチャンスまで諦めませんから。どうなるか解りません。秀吉も、準も、俺も」


.
.
.


目覚めてから俺は部屋にいて、滝本先輩もいつも通りに戻ったらしくて病院を無事に退院。こうしていつもの学園生活に戻った……のか?


「準、其処はこっちの公式を使うんだ。それに、初歩的計算ミスも有るぞ」
「……強先輩、自室で勉強しないんですか?」
「此処は温いし準が居るから勉強は進む。大丈夫だ」


なんて言うけど俺に勉強教えてるし、本当に大丈夫なのか?放課後の此処は部室のカメラ部門の部屋です。橘と香取と俺一年ズで勉強会中。テスト範囲は早々出たし、教科によってはテストの出題問題集を配る教科も有る。だけど広範囲な為覚えるのは大変だし、一週間前になったら部室使えないし。師匠が来るのは四日後だからそれまで勉強会。

そして何故か強先輩が来ては教えてくれる。俺だけじゃなくて橘にも教えてるし、香取は余裕そう。その余裕俺にもくれよ。


「元部長のー将来の夢はーなんですかー?」
「嫁の準と同棲し安定した生活を送ることだ!」
「サラリーマン?」
「まぁ、そうだな」


うぅ……堂々と言わないで下さい。恥ずかしい。しかもあれからずっと準って呼んでるし、嬉しいけどさ。


「強先輩、大学で好きな人が出来たら言って下さいね。直ぐに別れますから」
「悲しいことを言うなよ準。俺はお前だけだ。休日は会いに行くし、色んな所に行こうな」
「……はい」


でも、二年間離れちゃうし。人の心なんて直ぐに変わる。俺も二年間どうなるかなんて解らない。そうだな、大学生になっても両思いで、付き合っていられたら信じよう。
それまでは……


「はーやま」
「ん、なんだ香取?」
「ミミズってる」
「へ?あ……」


ノートを見ればミミズ文字。
やっべー考え事するとミミズ文字が生まれてしまう!やべぇやべぇ。あ、消しゴム欠けた!地味にショック。


「松下準になるんだ羽山君」
「橘は矢田淳一か?そして…瑰侠一佐、うわっ、香取強そういや、最強そう」
「勝手にー会長とくっつけないでくれるー?」
「香取準にはさせない。絶対にさせない」
「静かに勉強ー出来ないのー?」


あ、あれ?香取怒った?照れてないし、なんか苛立った?茶化したり乗ってきそうだと思ったんだけど、あれ?会長がそんなに嫌い……そう言えば金沢先輩が香取を襲ったのは会長だって言ってたような。


「会長と喧嘩したままか?」
「は?」
「すいませんごめんなさい勉強に集中します」
「そーしてー」


会長という単語はタブーだ。香取様超不機嫌。視線で殺されるかと思った。
この後は静かに勉強会。何故か小声で教えて貰う。けど、香取はシャーペンをパキッと折り溜息を吐くと部屋を出て行った。

香取様、怒りを沈めてくれたら良いのだが。


「香取君、会長と不仲なの?」
「ぽいよな、あの反応は」
「当分は会長という単語は禁止だな」
「あと、松下先輩が羽山君と居るのも良くないかもしれません」
「……だよな」
「香取、諦めが悪いな」
「「人の事言えませんよ先輩」」
「えっ……」


諦めの悪さから落ちてしまった俺も俺だけどな。もし、香取が今告白してきたら……いや、考えるな俺!揺らぐな!香取は親友!親友様だ!例え煙草を吸う不良でも香取は親友様!


「橘、聞きたいことが有るんだが」
「あ、はい」


橘は金沢先輩に呼ばれて行ってしまった。
カメラ部門の部屋には俺と強先輩だけとなった。


「準」
「は、は……ぅんっ」


返事をする前に塞がった唇。
あーもーこの先輩は。


「駄目ですよ、先輩」
「誰も見てない、大丈夫だ」
「ふぅ……んんぅ」


抱き締めてまた唇を重ねて楽しむ先輩。
俺、勉強しないと、それに!


「はぁっ、強先輩!」
「ん?」
「浪人したら即別れますから」
「……本当に?」
「はい」


先輩は俺を数秒見て離れて黙々と勉強を再開させた。これで俺も勉強に集中出来るな。


「準、俺のこと好きか?」
「……はい」
「本当に?」
「しつこいのは嫌いです」
「すまん」


お願いだから勉強をさせてくれ。


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