短・中編置き場

□始まりが終わり
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5月7日晴天。
この日はゴールデンウイーク明けであり学生は再び学校が始まると思うと憂鬱になり学校に行きたくないと思う日だろう。

だが、漆瑛良(ウルシアキラ)は違った。


「おはようございます漆様!コレを受け取って下さい!」
「おはようございます!お誕生日ですね!」
「おめでとうございます!こ、コレ、受け取って下さい!」


朝の登校時、勇気ある1人が来るとどんどんと生徒から挨拶と祝いの言葉とプレゼントを寄せられる。


「ありがとう、大事に使わせて貰う」


それを得意の微笑みで受け取るとキャー!と悲鳴が上がり相手は赤面。その子の頭を撫でれば硬直。

僕も僕もと寄ってくる生徒達。
俺は払うことなく受け取っては持参した紙袋に入れていく。が、紙袋はプレゼントを入れていくと5分も経たずに膨れ上がる。プレゼントが山盛りで2つ目の紙袋も同様。

下駄箱はロッカーになっているためロッカーにプレゼントを入れられることは無いが机の上には有る。
そして再び持参した紙袋が簡単に消費される。

計5つの山盛りの紙袋。
教室に置いておくのは邪魔である為、俺は持つのは3つが限界で心優しいクラスメイトに2つ持って貰いプレゼントは生徒会室に置く事にした。


「今年も人気者だな漆様」
「俺を誰だと思っている。この学園の生徒会長様だぞ?」


漆様のこと、漆瑛良。
学園男子校の生徒会長を務めている高校3年生。
しかも2年の時から務めており文武両道、眉目秀麗であり中等部の頃から人気者であり常に首席、学園のトップに立っており、生徒は漆瑛良を尊敬し、支持していた。

漆は自分の顔を自覚し、己の人気も解っていた。中等部からそんな扱いをされ高校3年の今は天狗が最高潮に絶好調である。


「生徒会の仕事を少しだけして行く。先に戻っていてくれ」
「わかった……っ!」
「運んでくれてありがとう」
「く、クラスメイトだからなぁぁぁぁあ!」


お礼に相手の額にキスをすればクラスメイトは赤面して額を押さえ慌てて生徒会室を出て行った。しかもきちんと扉を閉めてだ。
漆瑛良はあんな反応をすると解っていてキスをした。

もう一度言おう、漆瑛良は天狗になっている。最高潮に絶好調。
ドカリと己の指定席である生徒会の椅子に座り足を組み、腕も組むとクルリと椅子を回し天井を見上げ


「フハハハハハッ!愉快愉快!これだから学校は嫌いにならねぇ!最高だな!」


高笑いを始めた。
周りが集まって当たり前。人気なのも当たり前。貢がれて当たり前。相手の反応が面白くて当たり前。ストーカーされても当たりま…えではない。

好きなだけ、思う存分満足するで高笑いをすると気持ちをプレゼントに向けた。


「さて、今年も分けるか」


毎年恒例プレゼント分別。
ブランド物、普通、恐怖の手作りに分ける。
ブランド物、普通は問題ない。
だが手作りは怖い。何が有るか解らない。
中等部2年の頃手作りマフィンに淫靡薬が含まれ大変な事になり中等部3年生の頃手作りクッキーを食べて腹を下した。食べ物以外でも髪の毛を含んだ人形やぬいぐるみ、手紙に何処の毛か言いたくないような毛が入っていたり……それ以来手作り物は自宅に届けた後即処分される。


「はっ、ワインかよ。学生がよく手に入れたもんだな。ぶはははっ!今年も入ってたな藁人形!おっ、コレは俺が好きなブランドの香水。うわっ!誰だハムスターを入れた奴は!生き物を一緒にするか普通。理事長に預けないとな。生き物はもう無いよな?蛇なんて入れてないよな」


ワクワクと楽しみながら分別していく。
朝の予鈴が鳴ってもお構い無しに分別を続ける。

中等部の頃、女性からプレゼントを貰うのは良かった。けれど同じ男、しかも友人でもない人に初めて貰った時は戸惑った。
けれど慣れは怖いものでイベント事や調理実習時に作ったものまでプレゼントされたら普通になり中等部の頃から完全に男から貰う違和感を無くしていた。

それに好意を寄せられるのは悪い気がしない。断る理由が無い。相手が勝手に貢いでくれるのだから。


話を戻すと漆瑛良は独り言のオンパレードと共に分別作業を済ませるとプレゼントの山は生徒会室に置いて理事長室に行きハムスターを預ける。理事長もさすがに生き物を無下にする事はなく寧ろ癒され勝手に名前を付ける程可愛がりだした。

それを見ると理事長に譲ろうかと思うが貰ったのは自分。学校が終わったら即返して貰おうと思いながら教室に戻った。

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遅れながらも授業に参加し午前の授業が終わると生徒会スマイルを崩さずに食堂に昼食を食べに来ていた時だった。
二階の生徒会専用席に座り頼んだ洋食定食を待っていると後ろから声がかかった。


「漆会長、お誕生日おめでとうございます」
「あぁ、ありがとう柳(ヤナギ)副会長」


すっと隣に座ったのは柳副会長。
別名、いや、通り名は学園の王子。
だが漆瑛良は変態王子と呼んでいる。
そんな変態王子とは中等部から6年間の付き合いであり、漆瑛良が認める良きライバルと勝手に思っている。


「細やかながら僕からのプレゼントです」
「毎年思うがお前は俺をどう見てるんだ?」
「調子に乗っている生徒会長ですが何か」
「正直だな」


渡されたプレゼントは鞭だった。
叩きみたいなビラビラが付いた黒い鞭。
去年は変な仮面だったと思う。


「それに、貴方も毎年僕へのプレゼントは傘じゃないですか」
「雨男に傘をプレゼントして何が悪い?助かるだろ?」
「梅雨の時季に生まれたからって雨男と呼ばないで下さい。……はぁ、今年もこの流れですか」
「そうだな」


溜息を吐いても麗しく柳の周りには紫陽花が咲いているように漆は思う。
6月の梅雨生まれ、そして柳霜士(ヤナギソウシ)と言う名前のイメージからだ。
一般性とは薔薇が咲いている様に見えるらしいが漆は出会って一度もそう見えた事は無かった。


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