短・中編置き場

□始まりが終わり
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「かーいちょっ!誕生日おめでとー!」
「うおっ!」
「……おめでと、プレゼント」


柳副会長と話していたと言うのに後ろから抱きついてきたのは会計の鬼塚風(オニヅカフウ)だ。
そして隣でプレゼントを渡してきたのは書記の鬼塚雷(ライ)。
活気で落ち着きがない風に落ち着きすぎて寡黙な雷。2人は性格、顔も似ていないが双子である。


「ありがとう。今年もハンカチか?」
「そー!2人で選んだんだお!」
「オマケ、有る」
「オマケ?」


包みを開けたら触り心地の良い紺のハンカチだ。そしてオマケと言われ何だろうとハンカチを開くと漆は咄嗟に畳み直した。


「コラ!お前達此処は食堂だ!TPOを弁えろ!」
「うはっ!会長真っ赤!きゃわいー!」
「真っ赤っか」


風は笑いながら漆の顔を見ては頬すりをする。そして柳副会長は畳まれたはずのハンカチを広げ中に入っていたゴムを取って見た。それからほのかに苺の香りがするのは気のせいでは無いだろう。


「相変わらず弱いですね、ゴムを見ただけで真っ赤にするとは。ゴムもサクランボの香りにすれば良かったのでは?」
「サクランボ……無かった」
「俺はプラトニック・ラブなんだよ!つか、会計いい加減離れろ!」
「はいはーい」


漆の隣に風が座り柳副会長の隣に雷が座る。
反省の色は無く寧ろ微笑ましい表情で3人は漆を見ていた。

漆瑛良の最大の弱点、それは性的な事だ。
俺様天狗生徒会長と掲げているがこの会長、童貞処女である。
奇跡ながらも中等部からプラトニック・ラブを主張し襲われれば文武両道の武が炸裂し相手を干し己の童貞処女を守りきってきた。


「それ、お前にやる!」
「何言ってるんですか。双子が貴方にプレゼントしたものなんですよ。受け取れません」
「返品だ!」
「Not返品!クーリングオフは受け付けてないお!」


最後の望みに漆は書記を見たが駄目、と雷は腕をクロスさせてバッテンを作っていた。


「っ、クソ!」
「捨てずに受け取ってくれる会長偉いお!」
「部屋に戻ったら捨てる!絶対に捨てる!」
「お待たせいたしました、洋食定食になります」


と、此処で一度会話が切れる。
漆の昼飯が来たからだ。
そして昼飯の時は静かに食べたい派の漆の隣で話せば煩いと睨まれ下手したら何かが飛んでくる。飛んでくるものは拳であれば良いが過去には飲んでる水や味噌汁、お椀も飛んできている。

学習している生徒会メンバーは話を中断せざる得なかった。


「話は此処までだ。いただきます」


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.
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黙々と昼食を食べ終えると「御馳走様」と言ってまだ3人が食べていようが席を立ち先に教室に戻る。

それはいつもの事だ。
漆と話したければ御馳走様と言った後直ぐに呼び止め話せばいいが大抵食堂を出てからになる。
漆の中では食堂は食べる所として認識している為話すとなるとほかの場所を選ぶ。
漆の中の変な拘りである。


そして今日は誕生日の所為か食堂を出ればプレゼントを再び渡される。
得意の笑顔で受け取り手では持てなくなる程貰うと教室にある紙袋に仕舞い分別する楽しみが増えたと心の中で笑う。

それからチャイムが鳴り午後の授業が始まった。


.
.
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授業が終わり放課後。
プレゼントが入った袋を持って生徒会室に向かう途中も2、3人からプレゼントを受け取った。


「人気者って困るな。フハハハハッ!」


そしてコレが一番手に生徒会室に来て紙袋を置いてからのふんぞり返って座った瞬間の独り言である。

気分は最高に良い。
最高に良いが所為で調子に乗る。


「ふっ、体育祭に向けての仕事は会計と書記に任せて部誌を返すのは副会長に任せよう。で、俺の仕事は特に無しだな!良し!帰るぞ!」


重なっている部誌のノートの上にメモを置いて副会長の席に置き、会計、書記の机の上に体育祭に向けての予算やプログラムの最終確認書類を制作した後体育祭担当の教員と生徒会担当顧問に提出しておけと書いたメモを置いてプレゼントが入った袋計7つを持って颯爽と寮へ戻る。

その途中でチワワみたいな生徒達が袋を持つ手伝いをしたいと申し出たので遠慮することなく持たせた。
寮に戻ると受付に行き段ボールと郵送伝票を貰う。自宅に送る為伝票に書いてる最中チワワっ子達が段ボールを組立プレゼントを移す作業をしてくれた為に楽に終わった。

お礼に額や頬にキスすると赤面してダッシュで去るチワワっ子達。
プレゼントが詰まった段ボールを寮長に任せて部屋に戻ろうとした時に思い出す。
ハムスターを回収し忘れていたことに。


「寮長、部屋でハムスターって飼えるのか?」
「ハムスター?貰ったの?」
「ジャンガリアンハムスターの雄を貰った」
「生き物は基本禁止なんだけどね、困ったなぁ」
「そうか。ならいい、理事長に預けておく」
「えぇ?!」


話は終わりだと漆は部屋に戻った。
もうプレゼントを貰いまた段ボールに入れる作業をするのは面倒な為、理事長には電話で話すことにした。

漆の部屋は最上階の1人部屋である。
それは生徒会と風紀委員長と副委員長の特権である。


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