短・中編置き場

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迫る体育祭に書類や報告、確認等1人で捌いて放課後は分身の天津が迎えに来てやっていた生徒会の仕事は明日に回った。

寮に戻る時も天津は横に並んでいる。
瑛良は天津に聞かなければならない事があった。


「……紅太郎」
「はい」
「お前に質問しても本体の紅太郎の答えと同じなのか?」
「はい。本体の私と繋がっています」
「そ、そうか」


ならばこの分身天津に聞いても問題は無い。
今、歩いてる廊下は天津と瑛良の2人しか居ない。聞くチャンスは此処しかないと瑛良は意を決し深呼吸をした。


「こ、紅太郎!」
「はい」
「俺とお前は…こ、恋人同士、だったんだよな?」
「はい」
「キスは、したのか?」
「はい。瑛良様との濃厚なファーストキスは契約した5歳の時にしましたし体の関係は瑛良様が夢精なさった夜に私の全てを差し上げました」
「……そんな幼い頃からの関係だったのか?」
「はい!」


瑛良の顔面は真っ赤に染まっていた。
記憶が食べられたとは言え子供の頃からの関係だったとは思っていなかった。
それに、プラトニック・ラブ主義だと主張していたはずなのに手が早い消えた記憶の自分に怒りと悲しみを感じる。

考えを変えればそれほど天津を愛していた、と考えられると言えば考えられる。


「っ、と、それでだな、紅太郎は俺が他の奴とキスするのはイヤか?」
「嫌です。相手を殺します。誰ですか瑛良様の唇を重ねたのは。狐の若造ですか?」


ハッキリキッパリ。
そんな紅太郎の瞳は怒りと嫉妬、殺意に溢れた鋭い銀朱の瞳になり瞳孔が開いていた。

流石に瑛良はそんな天津の瞳に一瞬恐れた。
が、引いている所ではない。


「キスはしてないから殺気を仕舞え……俺が聞きたいのは、人助けでキスする事は許されるかどうかだ」
「人工呼吸ですか?」
「まぁ、そんなものだ」
「……柳様、ですね」


ピタリと天津の足は止まった。
遅れて瑛良も足を止め紅太郎を見ればまだあの瞳は健在。
体から許せないと気を発しているのが見えないが雰囲気で解る。

コレはマズい、俺と柳が殺される。
そう感じたけれど、天津から発される殺意は突如フッと小さくなった。


「私は嫉妬深いです。ですが、私も柳様を助けたい。だから、今回は見逃します」
「……ありがとう」
「体の本番は流石に許しません。仮にそうなれば……解りますね?」
「あぁ」


瑛良様と柳様を殺す。
鋭い眼孔で言っていた。

瑛良は取り敢えずホッとする。
許しは貰えた。貰えなかったとしても説得して許して貰うつもりだった。

だが、殺意100%の天津に駄目だと言われ説得出来るかと今聞かれたら出来なかったと答えるだろう。
きっと天津に拘束、監禁され二度と陽を拝むことが出来なかった。

ホッと一息を吐くと自分の部屋の前に着いていた事に気がついた。


「瑛良様」
「ん?」
「柳様を好きになったら……柳様の一族を全滅させた後、瑛良様と心中します」


想像以上に重い。
だが、脅すほど不安なのが伝わった。


「安心しろ、変態王子の副会長の柳を好きになることは無い。断言してやるよ」
「……可愛いとは思うでしょう?」
「かもな。柳……そうちゃんとは友達、仲間止まりだ」


そう言って瑛良は自分の部屋に入って行った。
廊下に残された分身の天津は不安を抱えたまま本体の元へ消えた。

.
.
.


瑛良は部屋にると椅子に鞄を置き上着を背もたれにかけた。
そして寝室の奥の部屋に入る。

その部屋は薄暗く黒い鉄格子に札が貼られている。そして鉄格子の向こう側には床や壁にも札が貼られ一式の布団が敷かれていた。
布団にはうっすらと目を開き瑛良を見上げる柳が横たわっていた。


「気分はどうだ柳副会長?」
「……」
「口が利けないほど衰弱していた様だな」
「……」
「その様子だと立つことも出来ないか。子供の頃のそうちゃん状態だな」
「、、…の……なま、…………ぶなっ」
「はいはい、苦しいのは解ってる。話すのも辛いだろ。今、楽にしてやるから」
「っ、…るな、ぼくっ、………な」


鉄格子の隅にある扉を開き中にはいるとそこは別空間だ。
布団は変わりないがコンクリートだった床や壁が芝生や木々、近くには川が流れている。
踏み込めば芝生を踏む音や感覚がするし川からイオンが発せられてると思える。
とてもリアル自然空間である。


「お前とキスするのは訳12年ぶりだな」
「だっ、だめだっ、やめっ、」
「お前が弱まれば姉の霜花も危険だと解っていての抵抗か?」
「っ!」
「俺より霜花を守らなければならないだろうが」


弱々しい小さな声と布団から出た手は瑛良に握られた。
そして霜花という名に柳の瞳は揺れた瞬間を逃さず瑛良はそっと柳の唇に己の唇を重ねた。


「……悪いな、タマネギを刻んで涙を出すよりこっちの方が早いからな」
「うるし、かいちょ、」
「もう少し我慢してくれ」
「っ、んっ、はぁっ……」


唇を重ね下唇を甘噛みすると開かれた口。
隙を逃さずに深い口づけをする。


黄金の果実の汗や涙は極上甘味、血肉は寿命を延ばし魂を食らえば神に近くなると云われている。

息や蒸発する汗からも少なからず黄金の果実の力は有る。

そしてキス、唾液も黄金の果実の力を宿している。

衰弱している柳を回復させるには十分だった。
そして受け取った黄金の果実の力は強く、柳は体を震わせると眠りについた。
見ると前より顔色が良くなっている。
瑛良は柳の髪を撫でると再びキスを続ける。
そしてキスをしながら出会った頃を思い出していた。


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