短・中編置き場
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学園の体育祭は虎と龍で分かれる。
赤と白ならば赤は勝利のイメージが強いが白は白旗を振り降参のイメージが有るため却下。赤と黒でも黒は黒星、相撲では負けを意味する。たので黒も却下。青もクールや冷めているイメージが強い。と、言うことでこの学園では虎と龍の2人チームに分かれる事になっている。虎と龍ならばどちらも闘志がある。生徒から属したチームカラーで負けたんだと言われることはない。
そして現在、その虎と龍が大きなパネルに描かれている。美術部員がデザインした各チームの得点パネル。
描くのは美術部員だが色を塗るのはクラスから強制的に出された者達。
色担当を決めてデザイン用紙と睨めっこしながら塗っては移動、塗って移動をしている。
「会長!緑色と黒色が足りません!」
「会長!黄色が足りません!」
「あぁぁぁあ!そこは緑じゃなくて青!ぎゃぁぁあ!乾く前に上からぬるなぁぁぁあ!」
「会長!白色が足りません!」
「会長!ペンキが弾いて塗れませんっ!」
「会長!」
「会長!」
「会長!」
瑛良は焦る生徒を前に冷静に足りない色のリストを書いていた。昨年も同じ様な色が足りなかったなぁと思いながらだ。
「お前達落ち着け。混ぜて作れる色は混ぜて作ってみろ。足りない色は注文しておく。そこ、床を汚すなよ。塗る場所は絶対に3回は確認しろ。美術部員、弾く原因を調べてくれ。えーと後は何だ?筆か?丁寧かつ綺麗に扱え!」
会長がパネル制作の指揮をとっていた。
本来なら庶務の天津、体育祭実行委員がするのだが今年の実行委員は応援団に力が入りすぎてパネルの事はお粗末だった。
それに気づいた瑛良は再び仕事を天津に押しつけパネル制作の指揮をとっていた。副会長が居れば副会長に任せていたが副会長は休養中で実家に送ったばかりだ。
この時少しだけ瑛良は後悔した。
休養は1週間ではなく3日にすれば良かった。
瑛良も筆を持ち色を塗る始末だ。
「後5分で休憩だ!手を抜かずに頑張ってくれ!」
そう声をかけるとみんなからバラバラだけど返事が返ってきた。
ホッとすると頭の中でこの次は応援団のダンスの完成具合を見に行く、その後は生徒会の仕事、その後は風と雷の餌作り、その後は……と、予定を思い出していた。
「……っと、休憩だ!休憩は20分!俺は他にやることが有るからお前達だけで頑張って欲しい」
するとえー!行かないで会長ぉぉぉお!と嬉しい声が挙がる。引き留められるのは悪い気がしない。
「俺はお前達を信じる。時間が空けばまた来るから頼むぞ」
そう言い残して瑛良はペンキを他の生徒に渡すと次の仕事へ向かった。
「誰か止めてくれ!」
「お前ら喧嘩は止めろって!」
「いっ!てんめぇ!」
ガキィ!
応援団のダンスの進み具合を見に来たら虎と龍が喧嘩していた。
殴り合う者、それを止めようとする者、怯えて見る者、呆れて見る者、そんな事よりダンスを覚えるのに必死な者。
団結力は無く皆様々だった。
瑛良は呆れ携帯を取り出すと三日月に電話を入れた。
「もしもし三日月か?応援団の方に風紀を配置し忘れてるだろ」
『えっ、応援団に配置ですか?犬下と犬村が行ってまへん?』
「犬下と犬村?……居たが伸びてるな」
『あちゃぁ、何人行かせた方がええ?』
「7、8人って所だな」
『そんなに?!まぁええは、7、8人やな、向かわすわ』
「あぁ、頼んだ」
『……なぁ、か』
プチン。
瑛良は三日月の言葉を聞く前に切ってしまった。
ブラッシングの約束をしようとした三日月がプチリと切られ数秒後天津と同様に嘆きながら待機していた7、8人の部下に向かう様に命じていた。
瑛良は増員の風紀が来るまで怯えていた生徒と呆れていた生徒達に倒れて気絶している生徒を保健室に運ぶように指示しダンスの練習をしていた生徒にテーマとどんなダンスをしてどんな曲なのか聞いた。
喧嘩している生徒に1人で止めに入るのは無謀だと考えているので喧嘩をしている生徒には増員でくる風紀達に任せる。
風紀委員が来ても落ち着いて対応するようにと言って次の仕事へ向かった。
渡り廊下を歩き校舎に入ると前から走って誰かがやってきた。
「こら、廊下は走るなと小等部、中等部で習わなかったか?」
「っ、瑛良様!緊急です!私の本体が連れ去られました!」
一瞬、瑛良の頭は回らなくなった。
天津は目の前に居る。けれど目の前に居る天津は本体が連れ去られた言った。
「……桃園か?」
「おそらく。生徒会室の扉をこじ開けられた様で」
「生徒会室に向かう。行くぞ」
「は、はい!」
(クソッ)、チッ!
瑛良は舌打ちをし再び携帯を取り出す。
「三日月!至急生徒会室に来てくれ!危険かもしれん、気をつけて来てくれ!」
『いや〜行きたいのは山々なんですわ』
「三日月?」
『うちも、退治せなあかんみたいやねん。躾のなっていない大きな駄犬をっ!』
躾のなっていない大きな駄犬
瑛良の耳からは明かに物が壊れている音が聞こえる。それから聞き覚えのある声が『逃げるな!』と狂乱に叫んでいる。
「三日月!手加減無用!完膚無きまで叩きのめせ!」
『えぇ?!ええの?!』
「5分の4殺しまで許す。と、言うよりそれくらいやらないとそいつは倒せない」
『まぁ、そうみたいやね……わいも少し本気に』
「全力で行け!手を抜くな!」
『……駄犬に恨みでも有んの?』
「大有りだ」
『わかった、本気出したら直ぐに終わるさかいまた連絡するわ』
「叩きのめしたらロープで縛り宙づりにしろ」
『はいな』
電話を切ると走る速度を速める。
そして着いた生徒会室を開けた。