短・中編置き場

□始まりが終わり−紅太郎失恋END−
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※紅太郎視点

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夢魔の桃園事件が解決し校舎も直った学園に平和が再び訪れてから一ヶ月が過ぎました。


「かいちょーはん、夏休み一緒に京都へ行きまへんか?」
「かいちょー!夏休み合宿キボンヌ!」
「せ、生徒会メンバーで、う、海……どう?」
「会長はぁ、僕とホテルでいちゃつくのぉ!」
「はぁ……僕の実家に顔を出すの忘れないで下さいね」


あの事件から瑛良様の周りはとても賑やかになりました。
賑やかになってから瑛良様は少し丸くなりましたし、ツッコミスキルが磨かれ、オタク用語も少しは理解なされ、大人の玩具に少しは慣れ、聖徳太子の様に複数の人から話しかけられても全て聞き入れキチンと返答をなさり……よく怒りますが、沢山笑う様にもなったと思います。

あの事件から周りの方々が前よりも心を開いたからでしょう。
みんな、大人びなくてご友人と楽しむ学生らしいお姿です。

全員、ご友人ではなく瑛良様に恋心を向けているとしても瑛良様が超鈍いのでご友人で留まっているのが幸いですけどね。あ、周りがピュアでごり押さないヘタレ乙メン(乙女妖怪)というのもありますね。

……かく言う僕も、ヘタレ乙女妖怪です。
ずっと瑛良様の後ろを歩いて、過ごしやすい学生生活を補助し、実家のお仕事もお手伝いして従者としての役目を果たしております。……が、それだけです。

今までならあの輪の話で僕は「瑛良様は私の御主人様ですからご予定は従者の私を通して下さい。まぁ、柳様を除いては採用されるかは私の気分次第ですがね」って割って入って言っていました。
でも、今はもう割って入って言わずに見守るだけにしたのです。

瑛良様のご予定は私が決めるのではなく、瑛良様が決める事。日程管理は御自分でなさり、上手く調節されている。

元々私は不要なのです。
本来なら瑛良様の傍ではなく遠くから瑛良様の生活を見守り、ご当主様に瑛良様の様子や出来事を報告するのが役目。


だけど、堂々と傍に居れたのは瑛良様が中学に上がる前に「俺から離れるな」と私に命じられたから……命じられなければ、私は瑛良様が中学に上がると同時にコウモリの分身を瑛良様を監視するように放ち、私本体は御実家でお仕事や鍛錬をするつもりでした。


しかし、その命令は記憶を無くす前の瑛良様の命令で、今の瑛良様はまだ私の記憶が戻っていません。


隣で瑛良様の腕を組んであざとく甘え、自慢の毛並みフッサフサな尻尾や柔らかでサラサラな耳を武器に瑛良様を魅了し京都へ誘う憎き九尾のなり損ない(まだ成長期なだけ)の若造に記憶を奪われました。

私が気を抜いたのが悪かったのです。
だが、あの若造は瑛良様の記憶を奪った。
瑛良様の中にある私の記憶を全て。
だから、今の瑛良様には私の存在が無い。

奪われたのはGW最終日だったので奪われたと気づくのが遅くなり、瑛良様の右腕に若造狐が腕を組んでいるその反対、瑛良様の左腕に腕を組んでいる夢魔の桃園が起こした事件の所為で記憶を取り戻すが延長になりました。

あんな事件を起こしておきながら瑛良様の腕を組むなんて自己中心的にも程があるでしょう……憎いですが瑛良様が私に命じずに腕を組むことを許してしまっているので私は何も言えません。

言えなく、なりました。


桃園の事件から3週間経った頃、若造狐と夢魔が加わったて、時々狼男と犬神も混ざったこのメンバーで過ごすのが普通になってきた。
常に私は周りに威嚇して、瑛良様と私は恋人同士どと言い張っていたけれど……威嚇をしなくても瑛良様の周りに対する対処はキチンと丁寧に、時にふざけたりして楽しみながらなさる。

その姿を見て私は……2、3日様子を見ました。

そして気づいたのです。
瑛良様は失った記憶を取り戻す気など無い。
今の生活に不自由が無く、私が居なくても変わらない事に。

つまり、私が居ない記憶を取り戻す気がないという事は、私に興味が無くなったという事ではないでしょうか。
私が居なくても変わらないという事は意識されず若造狐達と変わらない認識をされてという事ではないでしょうか。

私の記憶が無い瑛良様からすれば私も若造狐達と同じ、ただの御学友の1人という事です。


その事に気づいた時はとてもショックでした。
一晩中泣きました。

けれど、気づいたのです。
自分は瑛良様の特別だったから今までずっと傍に居れたのだと。
だけど今の自分は特別でないただの従者であると。
特別で無くなった自分のすべき事は何か、改めるべき事は何かと考え反省することができました。

従者でありながら瑛良様に沢山甘えてきた。
特別だからと思い上がって少し好き勝手に動いていた。
瑛良様の為だと言って、勝手に瑛良様を理由にして、時に自分の気持ちを押し付けた。

今までの自分を思い返して…………
今後の自分の行動を決めました。


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