短・中編置き場

□始まりが終わり−紅太郎失恋END−
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まず、1日ごとに瑛良様との距離を離す事から始めました。


今では役員メンバーで行動する時は一番後ろから見守り、食堂の席では書記の雷神様と交換しました。

あのメンバーの中では主張性が弱い雷神様が一番不利ですので少しでもチャンスを与えたくて……と、言うのは建前で瑛良様から少し距離を取って食事をする事によって客観的に周りが見えるようになりましたし、雷神様を自分に重ねて見た時にこんなふうに周りは見えてたのですね、と思う。

本来なら瑛良様の後ろに立っていたのですがそれでは不自然なので、妥協して少し離れる事にしたのです。だから若造狐と隣になるのは癪でしたが……我慢しました。ちなみに反対隣は風神様です。


それから、割り込むのを止めました。
話すのも最低限に控える様にしました。


嫉妬やヤキモチで威嚇をするのを辞めました。
若造狐に「いつもの威嚇はどないしたん?瑛良様は私の恋人ですからー!って言いひんの?」と、初めは言われましたが「恋人ですからね。威嚇をしないのはその余裕ですよ」と、言ったり「貴方と話してると下品が移りますから」とか、「日光が強く、体調が宜しく無いので話しかけないで下さい」と言ってあしらいました。

話を最低限にすると……仕事の話しか、無くなりました。後は挨拶くらいです。
元々私から話しかける事は少なく、瑛良様から話しかけて頂いてましたからコレは簡単でした。
簡単でしたから、とても寂しかったです。
記憶が有る頃の瑛良様は私に些細な事でも話しかけてくれましたから……。


夜、お食事を作るのを辞めました。
血を自分から頂くのも辞めました。
体を重ねるのも辞めました。


お食事を作るのを辞めましたと言うより必要が無くなりました。あのメンバーと食べる事が日課になりましたから、作るのは徹夜で仕事をなさるときに夜食におにぎりとお茶を煎れる時だけになりました。
御学友とお食事をする瑛良様は静かなのは変わり無いですが纒う空気は柔らかくなったと思います。

血は血液パックや鉄剤が有りますのでそれを飲みます。不味くて体に受付にくくたまに吐いてしまいますが何とか飲めます。
本来の吸血鬼の従者は主を護る時だけ血を飲ませて貰うのです。なのに私は強請って飲んでいました。
記憶を失う前の瑛良様は瑛良様から飲めと命じられていましたから飲んでいましたけど、今は命じられませんので強請って飲むのは間違っていました。

体を重ねるのも、同じです。
そもそも従者が主と体を重ねるのは禁忌です。
命じられてなら許されますが、従者から抜いたり重ねたりするのは和姦でも許されない行為で本来なら首が飛んでます。今、私の首が繋がっているのは奇跡と言えるでしょう。


この様に、本来の従者になるように私は距離を置きました。
主の身の回りの世話をして、さり気なく手助けをして、主を優先第一に護り抜く。
主と従者に特別な関係を築く必要は無い。
必要なのは信頼関係……いや、瑛良様に仕える喜びと瑛良様に道具と思われるだけで良いのです。



……ですが、特別な関係を持っていた私はいくら自分に鞭打っても慣れるどころか傷つくばかりで、瑛良様の記憶が戻れば……と、今の瑛良様ではなく私の記憶が有る瑛良様ばかり求めてしまう。

記憶が無い、私に素っ気無い瑛良様は瑛良様でないと思ってしまう。

記憶が有っても無くても瑛良様は瑛良様のはずなのに。


こんな自分に耐えきれず、夏休みに入ったら瑛良様との契約を破棄し従者を辞め、瑛良様から離れると決めました。
私は、瑛良様を見守るだけのただの従者になれませんから……。

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「天津、真夏は辛いですね」
「はい、丸焼きになりそうです…」


夏休み前と言えば真夏到来前という事なので、燃やす勢いで照りつける太陽に私と水龍の柳様は蒸発してミイラになりそうで早々にバテてます。

瑛良様の定期的に血を飲んでいればバテてることなんて無いのですが、1ヶ月近く絶って満足に飲めない血液パックと鉄剤だけでは体は耐えられないみたいで……瑛良様と契約してなかった時はどうしてたか思いだしても冷房の効いた地下の部屋でもやしと観葉植物を可愛がっていたので参考になりませんでした。


「柳。ほら、水槽を用意したから入れ」
「うぅ……今年もコレですか」


そう言って瑛良様は柳様に水が入った金魚鉢を差し出しました。
すると柳様は変身して、金魚鉢の中でタツノオトシゴの姿になって浮遊しております。

毎年、授業中以外はこの中で過ごすのが恒例で、金魚鉢を持つのは私でした。


「柳様、持ちしますね」
「天津は持つな。風が持て」
「ええっ?!俺っちが?!……ふくかいちょー、失礼しまーす」


毎年私が持っていたのに……そう言えば風神様は柳様に好意を示されていましたから、瑛良様はその手助けで私でなく風神様に持たせるように言ったのですね。
そのお気遣いは流石です、瑛良様。
風神様、柳様との仲がより深まると良いですね。


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