短・中編置き場

□負けてから3日間の話
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……生きてる。

目覚めてから初めて見る天井や知らない匂いよりも、そう思った。

手と足は不自由無く自由に動き、床に足は浮かずに着く。
俺、死んでなかったんだな……。

魔王に殺されたと思ったのに。

床に着いてる足を見ているとガチャッと扉が開く音がして、見てみれば黒い、二つの角……魔王!

「ハピィ、起きたのだな」
「っ!」

俺は直ぐ様部屋の端まで離れ身を屈め戦闘体制になった。
剣は?!杖は?!身に着けてない!部屋にも見当たらない!武器になりそうなのは無い!なら、体術で倒すしかない!だが倒せるか?ザック、ローリエ、メグミが居ても倒せなかった相手を……倒せなくても後遺症が残る様な傷をつけれないか?

「そう威嚇するでない。我とハピィは敵ではないだろう」
「…………ハピィって俺の事か?俺はジーンだ」
「何を言っておる。直ぐに寝かせたから忘れてしまったのか?お前は我の愛玩動物のハピィになったのだが」
「は?」
「改めて言おう。お前は我を幸せにする愛玩動物となれ。前の名前は捨て、ハピネスとなり、ずっと此処に、我の側にいよ」

何言ってるんだ魔王は。
俺が魔王の愛玩動物?幸せ?ハピネス?
…………あ。
なんかそんな話をしたような、してないような、

......................................................
「此処にいろ。我の愛玩動物としてな」
「……寝起き1番に魔王に俺は何を言われてるんだ?夢か?夢だよな?」
「夢ではないぞ。お前の名前はハピネス。我を幸せにする愛玩動物だ」
「嘘だろ…俺が、魔王の愛玩動物?」
「そうだ。これからはハピィと呼ぶぞ。ハピィと呼んでいいのは我だけだ。ハピィは我をアイと呼べ。いいな?」
「……」
「い・い・な・?」
「はぁ……まぁ、いいか。名前なんて元々無かったし、好きに呼べよ」
「ではハピィ!返事をせよ!」
「お、おう?!」
「ハピィ!」
「はい?」
「ハピィ!」
「……はい」
「ハピィ!」
「どう返事をすればいいんだよ!」
「アイ、なぁに?だ!」
「……」
「ハピィ!」
「……な、なぁに、アイ……うわぁぁぁあん!!」
「ハピィ可愛い!すごくよい!よいぞぉぉお!!」
「俺は死にたいくらい恥ずかしい!ちくしょぉぉお!!」
......................................................

「あぁぁぁぁあぁぁぁああああああ!!!」

思い出した!
その羞恥に絶叫してしまった!
うわぁぁぁうわぁぁぁあの時は負けてヤケになってたんだ!

「思い出したか?」
「嘘だろ、あんなの、マジ?マジかよ?!夢じゃないのかよ、嘘だろ!」
「嘘ではないぞ。ハピィは将来、我の花嫁さんになるのだからな」
「……何言ってるんだ」
「本当は愛玩動物なんぞにしたくないが、今は愛玩動物として我の側に居れば周りは煩くないだろう?ハピィが成人したら我と結婚するぞ!」
「え?ん?魔王?お前本物の魔王?魔王っぽい何かじゃないのか?」
「我は正真正銘の魔王だ。この二つの角が証拠でもある」

そう言われても……戦った時の雰囲気とが全然違いすぎて別人に思えてしまう。

でも、魔力量や魔力の質は魔王なんだよな……

「離れてないで近う寄れ。お着替えして食事に行くぞ」
「……」
「腹は空かせてないか?」

そう言われたらグーグー腹が鳴った。
そう言えば、魔王と戦う前に腹ごしらえしたのが最後だった。

恥ずかしいが、俺は空腹に負けて魔王の元へ。
「ちょちょいのちょ〜い」と巫山戯た呪文でピンク色のふわっとしたワンピースに着替えさせられた。
くそぉ……脱げない!剣が有れば切り刻んだのに!
女の格好をさせれるなんて、俺が一番嫌な事を!屈辱だ!最悪!絶対に許さん!殺す!

「髪を束ねるぞ」
「髪を?って、俺の髪の毛ながっ!キモ!」
「キモくない。綺麗で美しいぞ」
「切ろ!今すぐ!」
「否。勝手に切ったらハピィの息子の玉を切るからな」
「……わかった」

うぅ……髪より下の玉の方が大事だ。
マジ気持ち悪い、女だろコレ、最悪、死にたい。

魔王がルンルンに俺の髪を三つ編みにしたら俺は姫様抱っこされて瞬間移動。
食事の準備が整った部屋に着くと、いい香りがして腹がまた鳴って、涎が出た。

魔王が俺を抱えたまま椅子に座り、俺は魔王の膝の上。

「ハピィ、どれ食べたい?」
「いや、下ろしてくれ。このままだと食べにくい」
「我が食べさせるのだ!問題無い!スープか?パンか?ミルクか?!」
「……ミルク」

ミルク(牛乳瓶入)は流石に手渡されて飲んだ。
魔王も魔物も人間と同じ料理を食べてるとは意外で、モンスターの目玉とかモンスターの炙りとかスライムのスープとかゲテモノを食べてるイメージだった。

「まさか、俺の口に合うように人間を攫ったり作物を盗ったのか?!」
「……あぁ、シェフはちゃんと募集をかけて6人採用し、パテシエも3人採用した。野菜や肉や魚はシェフ達が目利きで買ってきたり菜園場が在るからそこで育てた物だ。明日顔合わせをさせてやろう」
「お、おう」

魔王が、人間を、募集してた、だと?!
人間もよく魔王城で働こうと思って応募したな?!

「美味しいか?」
「うん、美味しい」
「魚は避けるの。苦手か?」
「……うん。魚と魚介類全般嫌い」
「なら、シェフに頼んでハピィでも食べれる料理にしてもらおう。魚の美味しさを知ればもっと食べる楽しさが広がるぞ!」
「……魔王なのに人間っぽいな」
「そうか?」

食べる事が楽しいなんて思ったことは……

「あぁ、メグミが作ったクッキーとバームクーヘンを食べた時は感動したな」
「デザートだな。ハピィは甘い物が好きか?」
「別に。凄く飢えてた時に食べたから感動したんだと思う」

食べ物は腹の足しになれば、体が動けるようになればいい。
ただそれだけで食べてきたし、スラムの時なんか食べ物を食べれたらラッキーで、常に飢えてた。

魚介全般嫌いなのはスラムの時代に魚を盗んでも生だったからクソ不味かった記憶が色濃く残ってるからだと思う。
確か盗んだ魚は野良猫の餌になったな。
旅の道中、焼き魚の料理が出た時は抵抗が有ったけど我慢して食ってた。

「今日のデザートはプリンだそうだ。バームクーヘンは明日出してもらえるように頼むぞ」
「えっ、そんな、いいって!」
「我も好きだから良いのだ。ほれ、1口だけ魚頑張れ」
「ゔ……ミルクかスープをスタンバイさせてからな」

魚を1口頑張って食べて野菜スープで流し込んだ。
魔王はそんな俺を「偉いぞ偉いぞ〜」って褒めたけど……こんな食事で良いのか?


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