短・中編置き場

□負けてから3日間の話
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食事が終わると寝ていた部屋に戻されてベッドの上に乗せられた。
ベッドには絵本や本が沢山置いてあった。

「食後は読書かお昼寝だ。ゆっくりすると良い」

そう言われても俺は読める文字が少ないから読めないし、寝てばかりで眠くは無い。

旅をしてた時は食事が済んだら時間を決めて、みんなバラバラに好きに動いた。
俺は保存食集め、ギルドで簡単な仕事の手伝いや物々交換をしてお金を稼いだり、賞金首を覚えたり、森でモンスター狩りとか特訓とか……とにかく動いてたな。

「読めないのなら読んでやろう」
「えっ?!読めるし!簡単に読めるから!」
「じゃあ、我に聞かせておくれ」

そう言って絵本を手渡された。
表紙を捲って……

「むか、しむか?し、あるも、りの?おくに?いや、おくにお?おきなし?ろが?ありま?した?」
「むかしむかし、ある もり の おく に おおきな おしろ が ありました。だな」
「……その、おしろ、には、かわい?いおひめ?さまがすん?でい、ました。」
「…………」
「かわい、いおひめ、さまは、せか、いで?ゆうめ、いで?つま?え、食べ物にしたがる人が沢山いたのか?!」
「大根のつまではない。お嫁さんにしたいと思う人が沢山いたのだ」
「お嫁さん……お嫁さん……」
「ハピィ、無理をするな。我が読み聞かせよう」
「……お願いします」

魔王の膝に座らせられ、ホールド状態で絵本を読み聞かせてくれた。
俺が知ってる単語も、知らない単語も、1つづつ丁寧に教えてもらいながら読んでくれたおかげで絵本の内容がわかり易かった。

けど、やっぱり俺は、

「じっとしてるより、体を動かしたい」
「うーむ。1冊読んだしの……城の探検をするか?」
「する!」

探検と言っても魔王と一緒に手を繋ぎながら歩くのが条件らしい。
体を動かせるなら我慢しよう。

「まず、此処はハピィの部屋だ」
「俺の部屋?魔王の部屋じゃなくて?」
「ハピィの部屋、ハピィの居場所だ」
「……俺の、居場所」
「で、あっちは衣装棚、窓は天窓だから良く日が入る。本棚や机が欲しければ言っておくれ。設置する」
「……」
「次は隣の部屋!我の部屋だ!行くぞ!」

手を引っ張られて隣の部屋へ行ったけど、俺の頭には“俺の部屋、俺の居場所”という言葉が繰り返されていた。
此処は俺が居て良いのか、居たいと思える場所なのか。

「ハピィの部屋に机と衣装棚が1つ多いくらいだな。だから少し狭く感じるが、部屋の大きさは同じなんだぞ」
「……綺麗、だな」
「散らかしたら右大臣が煩くてなぁ。ハピィも部屋は綺麗にしとかなければ右大臣に怒られてしまうぞ」
「わかった」

部屋じゃなくて魔王の瞳と角が綺麗だと言ったんだけど、伝わらなくて良かったかも。
それと、右大臣は1度倒してるから、そんなに怖くないと思う。

「隣の部屋は我とハピィ用の浴室でな、露天もあるぞ」
「ろてん?」
「屋根の無い、外の風呂だ。お風呂に浸かりながら朝焼けや夕焼けを見ると、とても綺麗に見えるぞ」
「そうなんだ…入るの、楽しみかも」
「うむうむ!我もハピィと入るのが楽しみだぞ。風呂の隣はトイレでハピィの部屋から少し距離が有る。慌てずにゆとりを持って入るようにな。廊下で漏らしてしまうぞ」
「絶対に気をつける!」
「うむうむ。此処から下の階はハピィは知っておる試練の階層と我との決闘場、地下は牢獄。上は飛竜の眠り場兼見張り場だの」
「あぁ、魔王城に入る前にドラゴンと戦ったけど、見張りの飛竜だったんだ…初っ端から倒すの苦労して経験値とお金を沢山貰えたな」
「わざと我と戦うのも萎えさせる為に戦わせたのもあるぞ。無駄な戦いは好まぬ。平和が1番だ」
「……魔王らしくない言葉だな」
「人間の方が戦を好む怖い生き物だ。ハピィは可愛いくて我の癒し、幸せであるぞ!」

余計なことは言わなくいい、と言うべきだろうか。
でも、そこをつつくともっと言われて歯痒いような、恥ずかしい思いをしそうだ。

「うむ、後は空中庭園くらいかの」
「くうちゅうていえん?火山?」
「火山ではない。そうだの、お花畑が空に浮いておるのだ」
「お花畑が?」
「そうだ。空中庭園でお茶を飲むと完全なる別空間でとても癒される。ただ、雲の上だから気圧の変動があっての、耳を少し痛めてしまう。直ぐに慣れるが慣れるまでが苦痛だの」
「それは行きたいような行きたくないような…でも、女の子が好きそうだな」

とくに仲間のメグミが。
メグミはお花畑とかお茶とかお菓子とか好きで、時々ピクニック気分とか言って気分転換に巻き込まれた。
そう言えば、ローリエもお茶が好きだったな。
ザックはもっぱらお酒。
俺はミルクとか果実ジュースが好きだったけど、無いからお湯か水でお茶は子供舌の俺にはまだ早かった。

「うーむ。このくらいかの」
「雇ってるシェフとパテシエは?」
「渡り廊下の先の塔に住んでおる。食事をした部屋も渡り廊下の先の塔だな。本もそうだ。トレーニングルームや屋内プールも有るし、マッサージルームもある。一応医者もおるぞ」

隣の塔、物凄く充実してるな?!

「だが、我が入れるのは食事をとる部屋と図書室と医務室だけだ。そういう約束を交わしているから挨拶は明日だが良いか?」
「え?お昼とか夜じゃなくて明日?」
「シェフとパテシエは暇ではないからな。アポが必要だ」
「へぇ、そうなんだ」

魔王なのに勝手しないし横暴でもない。
本当に魔王っぽくない魔王だ。

「さて、次はどうするかの。飛竜でも見に行くか?」
「良いの?俺、倒したから恨まれてると思うけど?」
「我がおるから平気平気」

行くぞー!と魔王が連れて行ってくれると思いきや、ピンポンパンポーンと鳴った。
何だ?!奇襲か?!

『えー、魔王様、魔王様、修復工事が終わりましたので確認をお願いします。繰り返します、魔王様、魔王様、修復工事が終わりましたので至急確認をお願いします』

と、魔王は呼ばれたので飛竜の前に俺と仲間達が壊した部屋をちゃんと直せているか見に行く事となった。


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