短・中編置き場

□ハピィとプリン
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「お前さん、名は?」
「ぅ、ぅ……」
「名前を言わないとお前さんを食ってしまうぞ?」
「っ!ぅ、うぅ……わか、らない、ちら、ない」
「……」
「ちらないっ!ちらないっ!」

首をぶんぶん振って完全に俺の背中に隠れてしまった。

「本当にわからぬのか?知らぬのか?」
「わからない、ちらない、食べないでぇぇぇ」
「アイ、完全に怖がられてるけど?」
「ひぇぇぇぇぇうぇぇぇぇぇ」

アイは怖がっている白い人の頭に何も言わずに触れた。
白い人の震えは倍増したし、とうとう泣き出してしまった。

「もう一度問う。お前の名前はなんだ?」
「ちらないっ!ちらないってば、いやぁぁぁぁぁぁぁ食べないでぇぇぇぇえ!!!」

アイが頭から手を離すと白い人は布団を被って再び俺に抱きついた。
震えはMAX。俺の体まで震えてるぜ。

「厄介な魔法を掛けられてるの。本人でさえ見れない様に施されておる」
「じゃあ、コイツは本当に自分の名前がわからないのか?」
「そうだ。意図的に記憶喪失状態にされておると言えばわかり易いかの」

記憶喪失……なんでわざわざ?
自分で自分で掛けたのか、誰かに掛けられのか。
記憶喪失にする目的は?

「アイ、何時もみたいにちょちょいのちょーいで解除出来ないのか?」
「コヤツに掛かっている魔法はオリジナルである。簡単には解けぬが……1週間有れば解けると思う」

おぉ。流石魔王様、たった1週間で解けるんだな。

「だが、ただでさえ怯えていたのにさらに怖がらせてしまった。和解を含めると1週間では解けぬのぉ」
「この怯え様じゃあ1ヶ月は掛かりそうだな」

アイは優しくて怖くないんだと伝えるにはどうすれば良いのだろう?

「あ、そうか!俺の護衛にすればアイや俺、此処の事を知ってもらえれば怖くなくなるか!」
「……そうだの。護衛教育は右大臣とハピィに頼むぞ」
「え、俺?」
「左様。その者もハピィから離れぬだろうしな」

そうだろうか?
俺は盾にされてるだけだし、食べかけのプリンをあげただけだ。

「そうと決まれば夕飯を食べに行こうか」
「飯!肉!ステーキ!」
「ちゃんと魚も食べるのだぞ」
「す、少し、は、っ!」

アイに抱き着いていざ瞬間移動してもらおうとしたのだが、白い人が離れない。
と、言うよりも白い人の飯はどうするんだ?

「右大臣と食べてもらう予定だったが離れなさそうだの。2、3日は特別に共に食べるのを許そう」
「ありがたいけど、どうやって移動するんだ?」
「ハピィがそやつを抱えて我がハピィを抱えれば問題ないだろう?」

……アイが言うなら問題ないんだろう。
白い人がくるまってる布団を引っぺがして抱っこした。
白い人は驚きながらも震えながら俺に抱きつき返す。
そしてアイが俺と白い人を抱えて瞬間移動。

「ほら、着いたぞ。離れろ」
「ぅーぅー」
「うーじゃない。飯が食えないだろ。いい匂いがする肉を食べたくないのか?」
「ぅーぅ、キャインッ!!」

離れたくないイヤイヤとうーうー唸っていた白い人だがアイに後ろ襟を掴まれ俺から離れさせられた。
白い人、丸くなってカチンコチンに固まってる。
恐怖の震えを超えると固まるのか。

アイは気にせず白い人を椅子に座らせるとアイはいつもの席に座った。
俺はアイの膝の上がいつものポジションだけど、今回は白い人の隣に座った。

「固まったま食べなさそうだからな。特別に俺が食べさせてやるよ」
「ほぉ。優しいの」
「後々腹減ったと言われたくないからだ」

決して俺が世話焼きという訳ではない。
白い人はまだプリンを手に持っていたから無理やり外して俺の方に遠めに置いておく。

「それと、食べながらお前の名前を考えとく。お前とか、コイツとか、白い人だと呼ぶのに困るからな」

さっきからずっと白い人白い人連呼で言いずらくて困ってたんだよ!

.
.
.

食後の自室にて。

「記憶が戻るまで、お前を“プリン”と命名する」
「……ぷりん?」
「そう。プリン。覚え易くていいだろ」
「プー?」
「まぁ、プーでもいい。取り敢えずプリンだ。わかったか?」
「プー、わかった」
「よし!っと、この後は勉強する時間だ。一緒に勉強するぞ」
「プー、も、べんきょう?」
「おう。俺の大嫌いなマナーの勉強だ。右大臣と2人きりよりプリンもいた方がいい」
「そうなの?」
「そうなの」

本来なら護衛について学ぶべきなんだろうけど、俺が右大臣にギャンギャン怒られてる姿を遠目で見て笑われるのは嫌だ。
右大臣がなんと言おうと一緒に受けさせてやる!

「プリン、頑張ろうな」
「う、うん」

意気込むとタイミング良く右大臣が入ってきて、マナーの勉強が始まり、プリンと一緒に受けるのは許された。
けれど、

「右大臣も怖いのか、プリン」
「……ぅー」
「…………顔か?魔力か?」
「両方じゃないか?」

この会話は2度目だな。
相手は違うけど。
アイの時同様、プリンは俺を盾にして怯えている。

「プリン、俺が右大臣の顔面をボコボコにしたら怖くなくなるか?」
「おい」
「ぅー……」

チラッと右大臣を見て、やっぱり怖いのか俺の背にまた隠れた。

「……座って待ってろ」

右大臣はため息を吐いて部屋を出た。
けれど、プリンはまだ震えている。

「右大臣は消えたぞ?」
「ごめんなたい、プーが、怖がる、べんきょう、できない」
「気にすんな。座って待ってようぜ」
「……ぅ、」


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