暮古月番外編
□羽山inワンダーランド1
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それは、バスを降りて駅前のCDショップに向かっている最中だった。
休日で有った為駅前は人は多かった。多かったけれど、俺は見たんだ。
ウサギ耳で白の燕尾服を着て大きな懐中時計を肩から下げたMachicoちゃんが遅刻だよー!遅刻だよー!って言いながら走り去るのを!周りは何故か気付かない。俺は慌てて追いかけ走った。
見失ったのは駅のホーム。
改札を潜って階段を降りたまでは良いがそこから見つからず何処だろうとキョロキョロさせて見渡した。
そして見つけたウサギ耳のMachicoは向かいのホームに居た。こっちのホームに居たはずなのに何時の間に?!
呆然と立っていると俺は後ろから誰かに押され、線路に突き落とされた。
ヤバい、俺落とされた?!誰に?!それより電車来るな!来るなよ!
来るはずの打痛に覚悟して強く目を瞑った。たぶん、それがいけなかった。
何時までたっても衝撃はこないし、人が騒ぐような声もしない。それに有るのはジェットコースターの落ちてる感覚と似たものだ。
覚悟して瞼を上げると俺は落ちていた。
周りは暗く距離は解らないが、落ちているのは確実に解った。
つか、何で落ちてんの?!
俺、電車の線路に落ちてたんじゃねーのかよ?!
ばたばた両手を動かしても鳥のように飛べるはずは無く、何も当たらない。まずい!どうしよう!悩んで居ると光が射してきた。
な、なに?!出口か?!
頭を守り衝撃に備えると何かに当たったがまた跳ねて、当たって跳ねて。繰り返して落ち着いた頃上半身を起こす。
跳ねてばかりだったから体がグワングワンして気持ち悪い。それより、個々は何処だよ?
周りを見たが解らないがどうやらトランポリンに落ちた様だ。上を見上げたが穴は無い。あれ?何処に消えた?
そして立ち上がるとスースーとした違和感。
自分の姿を見るとまず目に入ったのは水色のスカートと白色のエプロン。ヒラヒラスカート。何故か白のタイツにカボチャパンツ。靴はお金持ちのお嬢様が制服で履きそうな黒い靴。そして頭を触ると布の感触。形は跳ねてる?えーと、つまり俺は、今先輩や香取が選んだ男の私服じゃなくてアリスみたいな格好になってるのか……はぁぁぁぁぁあ?!
「ずぅぅうんぐぅぅうん、ごぉぉんなどぉおごろにいだのかぁぁぁあ」
ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!
な、なんだ?!じ、地震か?!つか、誰の何の声?!
余りの振動で跳ねる俺。トランポリンの上だから更に跳ねるし!止まらない!誰か止めてくれ!
そう思っていると俺の上は真っ暗になる。
何?!何なの?!跳ね上がって今度はトランポリンではなくぽふんっと違うところに着地をした。なんか、硬いけど弾力が有る肌色の床。何処だ?
「あぞぉぉおんでなぁいでぇぇえぼやつのじぁかんだぁあぼぉぉおー!」
前方から大きな音と生ぬるい強風が。
耳を塞いで目を閉じる。治まってそっと目を開けると巨大な目が。
「うわぁぁぁぁあ!ばけものぉぉぉぉお!!」
「ぼぉっぼぉっ、おじぃぃいち゛ぃちゃうよぉぉお」
「ひぃぃぃぃぃぃいー!」
腰を抜かせて後ずさるが壁にぶつかったみたいで全力でその壁に縋り付く。怖い!怖い!怖い!化け物!デカ目の化け物が目の前に!
怯えていると再び上下に揺れる感覚。ふわりふわりエレベーターが上下してる感覚。ななななななんだよぉぁぁぁあ!
移動したのか俺は真っ白いクッションの上に落とされた。すげーつるつるフカフカ。高価なクッションだ。
そして気付く。
俺は、化け物の手の上に居たのだと!
そしてその化け物は、
「ほ、ほほほほほし、星永先輩?!」
「ばぁぁい、ずうぅうんぐぅうん、くっぎぃぃい」
ブオンっ!と前に出されたのはドデカいクッキー。バターの香りが強くサクサクする、まるで星永先輩が作ったクッキーみたいだ。
それよりも!でけぇ!全部がでけぇ!
星永先輩でかいし!クッキーも、カップも、なにもかもがでけぇ!
いや、俺がちっこいのか?!
目の前に小さなカップが置かれて、その中には紅茶が。俺サイズのカップ?!
「どぼぉおしだぁぁのぉぉぉお?たぶぇえないぼぉぉおー?ずうぅうんぐぅうんのぶきなぐぅぅうんぎぃぃいーだぼぉぉおー?」
見上げると再び強風と声にドアップの星永先輩。睫毛ながっ!口と歯、目怖っ!
けれど横から手が伸びてきてあんなデカい手に掴まれるのはごめんだと慌ててクッキーにカジる。
やばっ、美味い。
いつもの星永先輩の味だ。
こんなサイズで食べられるとは幸せかも。
必死でアムアム食べていたら満足したようで手を引っ込めた。危なかった、助かった…!
お腹一杯で残してしまったクッキーを置いて紅茶を飲んでフカフカ高級クッションに横になる。フカフカで気持ちいい。寝るのに最適。最高だ。うとうと寝かけるとバサッと何かが被さった。みると毛布。コレはフカフカしてる。気持ちいい。俺はこのまま眠ってしまった。