暮古月番外編

□瑰侠秀吉のペンギン
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ボクは小さなお姫様に一目惚れした。
初めて欲しいものが出来て、どうしてもお姫様が欲しくって。
小さなお姫様を調べると小さなお姫様は悪いお父様がいて苦しんでいた。
だからその悪いお父様と見て見ぬ振りをしていた悪いお母様を事故に見せかけて消した。

これで小さなお姫様を苦しめていた者はいなくなった。ボクはお姫様を救い出した王子様。お姫様をお迎えに行ってをお城に招き入れた。

だけど小さなお姫様はお城にいても泣いていた。もう悪い人達はいないはずなのに。悲しくて苦しそうに一人の人の名前を呼んで泣いていた。

その名前を調べたらお姫様にとって本当の王子様だった。ボクではないもう一人の王子様。ボクより先に出会って好きになった王子様。

どうやらボクはお姫様にとって一番悲しませることをしてしまったらしい。苦しめていた悪い両親を消すよりもその王子と引き離された方が何千何億倍も悲しくて苦しいみたいだ。

さて、どうしよう。
お姫様を悲しませない為にどうしたらいい?どうしたらボクに振り向いてくれる?

お姫様の好きな食べ物を与えても
お姫様の好きなドレスを与えても
お姫様の好きなおもちゃを与えても
お姫様の好きな絵本を与えても
お姫様の好きな宝石を与えても
お姫様の好きなお花を与えても

ずっとお姫様は見てくれない、泣き止まない。どうして?大人は宝石やお金を与えれば喜ぶのに。どうして泣き止んでくれないの?

お姫様の好きな王子様の人形を与えようか

それも考えたけれどそれはしなかった。
だって王子様の人形を与えたらお姫様は泣き止むけれどボクじゃなくてその王子様ばかり構ってボクを見ないだろう。それが嫌で王子様の人形だけは与えたくなかった。

どうしたら泣き止んでくれるのだろうかと考えて、たどり着いた答えは等価交換。お姫様の大切なものを奪ったなら同等のものを与えねばならないんじゃないかって。

だからボクは自分が一番大切で宝物の最初で最後に貰った母からのプレゼントをお姫様に与えた。

それはペンギンのぬいぐるみ。
泣いているお姫様の前に置いてこれはボクが一番大切な宝物なんだ、君にあげる。って言っても泣き止まないから、言いたくなかったけどこのぬいぐるみの名前は王子様と同じ名前なんだよって言った。

するとお姫様の泣く声は小さくなって。
取り敢えずそのペンギンのぬいぐるみを置いてボクはお姫様の部屋を出た。

何でだろう、泣き声が小さくなって嬉しいはずなのに胸が凄く痛かった。

食事の時間になってお姫様にご飯を与えに行くとお姫様は泣き止んでいて、与えたペンギンを抱えて眠っていた。

この時初めて天使の寝顔を見れて嬉しかったけれどお姫様の寝言で呟く王子様の名前を聞くとやっぱり胸が痛くなった。

王子様を起こしてご飯を与えると少しだけ食べてくれた。そして美味しいねってボクに言ってくれたと思ったのにお姫様はペンギンのぬいぐるみに向かって言う姿を見てボクは誤ってしまったと思った。

そのペンギンを奪って切り裂いてしまおうか。でも、それをするときっとお姫様はまた泣いてしまう。今度こそ泣き止む術が無くなってしまうだろう。それにあのペンギンはボクにとっても大切なぬいぐるみ、胸が痛いけどそのままにすることにした。

それから数日が経って、ご飯を与えに行くとお姫様はペンギンのぬいぐるみを強く抱きしめながらボクに言った。


『お勉強をしたいです、お仕事を下さい』


どうして?ってきいたら


『大きくなったら王子様と会うために。王子様と会った時教養が無かったら幻滅される。お金が無ければ王子様に会えないから』


真っ直ぐな目でお姫様は言った。

ボクは驚いた。
王子様に会わせて欲しい、此処から出して欲しいなんて言わずに勉学をして自ら働き自分の力で会いに行きたいと言うお姫様に。

揺らぎ無い王子様への思い。
ボクはその王子様には勝てない、お姫様を手に入れられないんだと悟った。
でも、お姫様が好きなボクは手放したくないって思うんだ。どんなにお姫様が王子様の事が好きでも。ボクは自分の力で君の笑顔を見てみたいと思うんだ。一目惚れしたポスターに映った笑顔をボクの力で。

だからまた使いたくなかったけれど


お姫様に大きくなったら王子様に会わせてあげる。それまでボクの元で働いくと良い。勉強は専属の先生を付けてあげる。王子様に会わせてあげるのは頑張ったご褒美だから。約束してあげる。


お姫様は喜んで、笑った。

小指を出して絡めて指切りげんまん。
初めてボクに向けられた笑顔も結局は王子様という魔法の言葉を使ったから。
胸の締め付ける痛みは何時も以上に痛かった。


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