暮古月番外編

□松下強の出会い
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冬休み、占い師に占って貰うと春の桜の下で運命の出会いをすると出た。

信じるか信じないかは俺次第。
運命の出会いとやらの桜は来年咲けば再来年も咲くしその先も咲く。
場所も特定無し。

曖昧な占いで良く有るお告げだと思った。
所詮青春期の高校生、それっぽい言葉と運命とか赤い糸だとか前世からのとかそんな言葉を足しておけば満足すると思っているのだろう。

1000円で視て貰った分相当だろう。
本格的な占いならお金はもっとするだろうし。だが、インチキに当たったとその時は思っていた。


で、冬休みが終わり春がきた。

そして俺は3年になり入学式は桜が咲いた。
今年も外部生の勧誘争奪戦だ。
今年は二人。
どちらか一人でも引き込まなければならない。外からの入学生は学園の色に染まっていない、だから他視点で物事を見るしその記事は面白い。第一に外部からなのだから頭脳は保証されているはず。
レポーター部門は文章力が少なからず要る。
戦力は外部生だ。


本来入学式に勧誘は禁止されているが風紀、生徒会に引き込ませる前に報道部が引き込まないとならない。

今年は金沢と俺の2人で勧誘だ。
手分けして外部生を探す。

外部生も繰り上がり組に混ざっている為見つけるのは難しい。
見つけるのは極秘で入手した志願書の写真のみ。

大勢の中から見つけるのは難しいだろう。
だが、俺には勘が有る。

80%当たる勘が!
コレを頼れば見つけるのは簡単だ。


何処に居るかなーと、あっちの方っぽいと思えば足を向ける事を繰り返していれば目に入った桜の木。

を、撮る、カメラを上げて悩んでいる少年。

カメラだ。
だが、珍しくはない。
友達と一緒に記念に撮る新入生は多い。

だけど、あの少年には違うところが有る。

カメラを持っているが、1人なんだ。

それに構えては降ろして、またカメラを上げては降ろす。
そして溜息。

構図が良くないのだろうか?
何が気にくわないのだろうか?

相手は1人。
先生も見あたらない。
話しかけても平気そうだ。


「君、新入生?」
「お、俺?」
「そう君。カメラ好きなのか?」
「コレは、その」
「見ても良いか?」
「ちょっ、」


内気な相手には強引に攻めても平気だ。
カメラを隠される前に奪う。
取られないように腕を上げて撮ったメモリを拝見しようとしたのだが、

ピョンッピョンッ!
あっ、ちょっ、
ピョンッピョンッ!
このっ、このっ!
ピョンッピョンッ!
ピョンッピョンッ!


俺の身長が高い所為か少年がジャンプしても届かない。
サラッと難なく俺が避けてもムキに頑張って跳ねる少年。

何だこの少年、面白い。可愛いぞ。
俯いて怯えて泣くかと思ったんだけどな。

っと、面白がって無いで本来の目的に戻る為にもサッサッと見て返そう。

どうせ撮ってるものは友達とか家族とかだろうし。パラパラーとメモリを見ていくが…………、こ、れは……


「いい加減にっ、」
「どれも凄いが建物と植物ばかりだな」
「……」
「好きなんだな」
「まぁ、」


本当に建物と植物、風景ばかりだった。
人物は無い。
だが、どれも引き付けられる。
人物が無い所為か物足りない気はするが今まで写真を見てきたが身体にビビっと来る写真はなかなか無かった。
しかし、コレは全部ビビっときた。

この少年が撮る人物はどんなのだろう。
興味が沸いてきた。

それにこの少年は原石の可能性も有る。
このままからかってさよならは勿体無い。
そう思ったらカメラを返して行動に出る。
少年の両肩を掴む。
お前は、逃がさない。


「その腕に見越して新入生、報道部に入らな いか?」
「は?!」
「君なら発揮出来る!考えといてくれ!」


突然の勧誘に驚いた少年。
よく見たら、可愛いな……。
平凡の中に愛着と言うか、イオンと言うか。


と、もっと少年を見たかったが先生にバレた。
俺は名前を大きく呼ばれ報道部の勧誘チラシを握らせて逃げた。


本来の目的を忘れて勧誘してしまった。
あの少年は来てくれるだろうか。

……きっと来る。

俺の勘はそう言っている。

来て貰わないと困る。

思い出すのは跳ねる少年と揺れた瞳。

あの少年は、


「松下部長!何処に行っていたんですか!外部生1人風紀に先越されてました、後1人は見つからないし」
「金沢、俺、嫁と出会った。きっとあの子が運命の俺の嫁」
「は?それより外部生!勘を働かせてくれ!」


先生を振り切り金沢に引き戻されどうにか風紀や生徒会より先にもう1人は勧誘出来た。
だが、あの外部生は来るか解らない。
手応えが薄かった。
来る確率が低そうに思えた。


「来てくれますかね?」
「あの子が入れば、来るだろうな」
「あの子ってさっきの外部生じゃなくてですか?」
「俺の嫁」


金沢が痛々しい目で俺を見るが気にしない。
俺は占い通りに運命の出会いとやらをしたんだ。
あの少年に間違いない!


「戻ったらあの少年を調べ尽くす!」
「駄目だこの部長」


.
.
.


「へぇ、羽山準というのか。父、兄ともにカメラマン。母は部分モデル……」


部室に戻ってパソコンであの少年について調べると納得した。
あの少年は原石ではなく、まだ磨き途中の宝石だった。


「部長、まさかこの生徒が?」
「あぁ、勧誘済みだ」
「大物を当てましたね……」
「俺が目を付けたからな。取るなよ」
「はいはい」


横から覗いた金沢は呆れていたが俺の才能には驚いていた様だ。
羽山を知れて満足して写真を眺めて居いると画面が動いた。


「部長」
「っ、や、矢田か。どうした?」
「この子、カメラ部門に希望だから入れて」
「……橘淳一?」
「僕が目を付けた子。必ず入れて下さいよ」


俺が勧誘して私情で入れると知って矢田が橘と言う子も入れて欲しいと……確かこの子は中等部の体験入部の時に居たな、その時から目を付けたのか。

まぁ問題無い。
橘という子が希望すれば入れよう。


羽山準、橘淳一、そして香取一佐。


今年の報道部の新入りはこの3人だけだと俺の勘は告げた。


−松下強の出会いEnd−
(13.06.03)

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