清月番外編

□こんな頼まれ事はしたくない。
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金曜日は朝からボランティア。
なので公欠届けが必要で木曜日が提出の締め切りであり、俺、坂木司は月曜日に提出は済ませていた。

の、だが。
締め切り木曜日の放課後、部活が始まったばかりの時に後輩の伊藤君、佐藤君がお互い涙目で俺の元にやってきた。


「「坂木先輩っ」」
「ん?どうした?誰かに苛められたか?」
「違うんです、」
「これ……」


と、見せられた公欠届け。
担任の先生から判子は貰っているが肝心な顧問のからの判子が貰えて無かった。


「僕達が行く度に先生の部屋から変な声がして」
「その声を聞いただけで足がすくんで入れなくて……ひくっ」
「解った。泣かないでくれ。一緒に行ってやるから」
「「ありがとう、ございますっ!」」


で、俺は伊藤君と佐藤君と一緒に顧問が居る家庭科準備室に来た。

準備室の前に着いたが、扉の向こうからもう俺でも聞きたくない音や嬌声が聞こえてきていた。

後輩達なんか聞いただけで体を震わせて俺にしがみついている。
ピュアっ子に刺激が強いし、学校だから勘弁してほしい。

正直俺も嫌だ。
人の情事なんて見慣れてないし、見たくないし、俺もどちらかと言うと逃げ出したい。

だが、後輩達が俺に頼ってきた。
助けてほしいと。
公欠届けが出せなくて困っていると。


「伊藤君、佐藤君。君達は此処で待ってて」
「はい」
「お願いしますっ!」


後輩達が俺から離れる。
深呼吸をして意を決して俺は扉をノックした。


「失礼します……っ!」


早く開けて中に入って急いで閉めた。
それはピュアな後輩達に現場を見せない為だ。

そして中に入ると籠もっている青い臭いに俺は不快で顔をしかめた。


「だっ、誰っ、ぁっ、んっ、ンンッ」
「誰だって良いだろ、俺に集中しろ!」
「やぁっ!だめっ、あっ、ぁっ、見られるのっ、いゃあっ」


……クソ来住がっ!
と、俺はさらに苛立ちを積もらせた。

来住(一応先生しかも茶道部顧問)は布埜先生(家庭科部顧問)を率先して襲っている。
情事中なら約8割が来住先生が襲ってる。
そして今回も襲っていた。

しかも目隠しと束縛プレイ。
見たくなかった。


「で、何だ?」
「コレ。判子貰いますよ」
「おー、ご苦労だな。判子はそこ」
「どうも」


来住先生と俺の会話だが勿論間には布埜先生の喘ぎ声や打ち付ける音が挟まれている。
布埜先生さっきから誰?誰?って聞いてるけど自分の声で判断出来ないって解ってるのだろうか。
きっと解ってない。

布埜先生の判子を押してサインはあえて来住先生に書かせる。
その間メモ用紙に家庭科部の伊藤君、佐藤君の公欠のサインと判子を貰いましたと書いておく。
情事が終わったら見るだろう。


「明日、コイツが襲われないか見とけよ」
「無理です。俺にもやる事は有るんで」
「菓子作りなんざ他に任せりゃあ良いだろ」
「俺しか作れないから作るんです」
「そうかい」
「まぁ、先生が俺と菓子を作るなら見張れますね」
「お前が襲うだろ」
「襲いません。先生と違って下半身緩くないんで。失礼しました」


サインを貰い部屋を出る。
廊下には俺を見て涙ぐむ伊藤君と佐藤君が寄ってきた。


「「先輩っ!」」
「貰ってきた。後は担任に提出しておしまいだから急いで渡してこい」
「はい!」
「行ってきます!」


伊藤君、佐藤君が職員室に駆け出す。
その背中を見送ってから俺は近くのトイレの個室に入り便座に座った。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


そして盛大な脱力と溜息。
後輩達の為とは言え、情事中に行くのは嫌だ。
絶対相手が來住だと俺に話しかけてくるし、平然を装ってるけど内心必死で喚いて泣きたかった。


「しかもよりによって先輩達全員休みって後輩達のを見越して休んだ。絶対休んだ。頼られると解ってて俺に押しつけた。最悪。最悪!」


先輩達も布埜先生の情事中に訪ねるのは嫌っていると知っている。
だけど嫌な役を俺にさせるなんて、嫌味ですか、俺の事嫌いなんですか。


「うぅー……」


泣きたいのを我慢して俺は携帯を取り出して電話をかける。


「もしもし委員長?今良い?」
『良いよ。どうしの坂木?』
「嫌な事が有ったから慰めて欲しい」
『解った、教室空いてると思うから教室で会おう』
「ありがとう、委員長」
『うん、早くおいで。待ってるから』


電話を切って俺はトイレから出た。
そして部室に置いていた鞄を回収して後輩達が戻ってきては今日は部活無しだと告げ、後輩達を帰して部室を閉める。

鍵を職員室に返して教室へ直行した。
そして教室の中に入ると席に座って読書をしていた委員長が居て、俺に気づくと本を閉じて立ち上がった。

俺は空かさず委員長にタックルハグ。
委員長は慣れているからか俺が突然飛んで抱きついても踏ん張ってくれた。


「委員長ぉ」
「おっと、どうしたの?」
「怖かった。凄く怖かった」
「んー?よしよし」


委員長は嫌がらずに背中を撫でてくれる。
それで安心出来る。
怖かったのも和らぐ。
嫌な気持ちも薄らいでいく。

詳しく話さなくても慰めてくれるから甘えてしまう。


「もう、俺、頼まれても次はしない。絶対にしない」
「しないって、何を?何をしたの?何を頼まれたの?」
「嫌なこと」
「どんな事なの?ねぇ、どんな事なの?!」

抱きついて落ち着かせてる俺。

委員長が性的な事を頼まれて嫌な思いをしたのではないかと思っていたり、慰めるに関しても20%程性的に慰めてあげようかと考えていたと知るのは約5分後に押し倒されてからだった。


………………
こんな頼まれ事はしたくない。
−End−


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