清月番外編

□手を繋ぎたいのに。
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※委員長視点
※高1の冬、まだ委員長は片思い。

………………

冬の学校で手を繋いだり相手のポケットに手を突っ込んで登校するホモップルを見て僕は羨ましく思った。

僕も坂木と手を繋いで登校してみたい。


『委員長の手、つめたっ』
『じゃあ温めてよ坂木』
『……俺の手袋、片方貸してやるから、右手だせよ。俺と手を繋いだら温くなるだろ』
『うん、ありがとう』
『あ、後で何かお礼くれよ』
『じゃあキスするね』
『ちょっ、委員長……』


なんていう乙女な妄想。
だけど現実は甘くない。
坂木なら、


『坂木、手握らせて』
『うわっ!つめた!』
『坂木の手、温いね』
『コレあげるから温めとけって!』
『……カイロ』
『鞄に未開封のやつが4、5個有るから遠慮無く貰ってくれ』
『う、うん』


これだ。
現実の坂木の反応はこっちだ。
確実に手を繋いで登校するにはどうしたら良いだろう。
自然に、怪しまれずに、坂木と確実に手を繋ぐ方法……。

一日考えて、絞り出した結果。

朝、坂木の部屋に行って、インターホンを押す。


「はーい。おっ、東君ではないか」
「おはようございます鷲津先輩。坂木は?」
「朝から僕様と遊んでくれるんじゃないの?」
「坂木司を出して下さい!!」
「うおっ、そんな怒らなくても!はいはい、出しますよ。出せばいいんだろぉ!」


坂木の同室の鷲津先輩は保健の先生同様苦手を越えて嫌いだ。
毎日坂木が作った朝飯と晩飯を食べてるし、坂木に起こして貰ってるらしいし、坂木に洗濯物や掃除をさせてるし、坂木に肩もみをさせてるとか僕より坂木を知ってるような口振りで羨ま、違う、不愉快そして嫌悪だ。


「おはよう委員長、…あれ?」
「おはよう坂木」


おっと、坂木が来たから笑わないと。
坂木に怖い顔を見せたくない。


「委員長、眼鏡は?」
「着けたくないから外してる」
「え?見えてる?俺の指何本立ってる?」
「4本?」
「2本だから!」


仕方ないでしょ、眼鏡外してるんだし見えないのは当たり前というか作戦の為に態と外してるんだよ。
坂木の顔がブレブレでも願望を叶えるために外してるんだよ。
部屋までは慣れの感覚で来たんだよ。


「眼鏡は?着けたくないって言ってたけど、誰かに何か言われた?壊れた?」
「鞄の中に有るよ。ただね、朝から着けると冷たくて、登校中にも着けていると外気で更に冷たくなるし耳が痛くなるから」
「そ、そうなんだ。眼鏡って大変なんだ」
「だから坂木、僕を誘導して欲しいんだ」


コレなら坂木と手を繋いで登校出来る!
寧ろ腕を組んで登校出来るかもしれない!
恋人と登校している気分を味わえるかもしれない美味しい作戦!


「解った、鞄取ってくるからちょっと待ってろ!」
「うん」


やったぁ!
眼鏡を犠牲にして坂木と手を繋いで登校出来る!
眼鏡なんて初めのヒヤッと感を我慢して掛ければ良いし、少し温めてから掛けたり耳当てすれば冷たさや寒さの対策は出来るんだけど坂木はノーメガネだから解らないだろう。

視力悪くて良かったなんて人生で初めて思ったよ。


「お待たせ、委員長!」
「うん」
「鞄、貸して」
「え?うん」
「此処、掴まって」


おぉ、ボヤケて解りにくいけど多分腕だ。
まさかの腕組み登校?!

僕はドキドキしながら腕の輪に手を通した。


「先輩!委員長に丁寧な誘導をお願いします!」
「おお、任せとけ」


……は?


「さ、坂木?」
「あはっ、東君から抱きつかれて見上げられるなんて朝から至福だな」
「え?!ま、ままままさか鷲津先輩?!」
「おい、離すなよ。坂木君から丁寧な誘導をするように言われたからな。ぎゅーっとしっかり掴まっていろ」
「いやいやいやいや僕は坂木に頼んで」
「委員長、俺より福祉専攻の鷲津先輩の方が誘導が上手だから安心して委ねられるだろう?」


鷲津先輩、まさかの福祉専攻。
知らなかった。
と言うか鷲津先輩それ嘘だろ。
貴方、理数科専攻でしょ。
坂木を騙したな。

そもそも僕は坂木と手を繋いで登校しいたいだけだったのに、なんで、なんで、なんで嫌いな鷲津先輩に抱きついて登校しなくちゃならないんだよ!!!!!!!


「行くぞ東君」
「さ、坂木っ、」
「俺は隣に居るよ。先輩と委員長の荷物を持って!」


うわぁぁぁぁぁん!
坂木に荷物持ちをさせてしまったぁぁぁあ!
そんな事をさせるつもりなんて無かったのに!
寧ろ僕が坂木の荷物を持って登校したいよ!

心の中で嘆いていると小声で鷲津先輩が話しかけてきた。


「残念だったな。お前、素直に言わないからこうなるんだよ」
「意図的に邪魔をしましたね?!」
「さぁ?僕様は困っている後輩に手を差し伸べて手助けをしてあげているだけだ。厚意には甘えな」


くっそぉぉぉお!
絶対に鷲津先輩が妨害をした!
僕の作戦を読んでこうしたんだ!
僕が坂木のこと好きって知ってるからやってるんだろうがぁぁぁあ!


「はたから見ればラブラブカップルと僕様の下僕だな」
「なっ!」
「先輩と委員長、お似合いですよ」
「坂木!お世辞だよね?!それ、嘘だよね?!僕と鷲津先輩がお似合いなんて嘘だよね?!」
「似合ってるよ?」
「やめてやめてやめてやめてやめて。撤回して。今すぐ撤回して」
「東君、素直に喜びなよ。僕様達の深い仲だろ?少し前に、下りの段差有るから気を付けろ」
「あ、うん…って違う!似合ってないから!は、離して下さい!手、握らないで下さい!」
「委員長、危ないから先輩に掴まってて。それに、本当にお似合いだし、先輩なら委員長を任せられると言うか、委員長って先輩に対して開放的だし、素直に出来そうだよな」


そ、そんな、坂木……
いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!

.
.
.


「鷲津なんかと嫌だぁあ!」


と、叫びながら飛び起きた。

それから息を整えて周りを見ると部屋はまだ暗い。
それに見慣れた僕の部屋で、ベッドの中。
……夢、だったのか?

.
.
.

で、夢が正夢にならない事を願って朝から坂木の部屋に来た。


「どうした東君?朝から僕様と遊んでくれるのか?」
「違います、坂木を出して下さい」
「そう睨むなって。坂木くーん東君が来てるよー」


……眼鏡は掛けてきた。
夢と同じになるのが怖くて外さずに掛けてる。
それに耳当てとマフラーも着けてきた。


「委員長?朝からどうした?!」
「一緒に学校行こう」
「……それだけ?」
「うん」
「え、と、じゃあ玄関で待ってて。直ぐ出る準備するから」


坂木はもう制服姿だ。
出る準備ってコートやマフラーを着けるのかな?
確か今日から気温が下がるって天気予報では言っていた気がする。

それから数分後、


「お待たせ!」


と、出てきた坂木の格好はコートとマフラーは勿論耳当てとニット帽に手袋に厚めの靴下で完全防寒装備していた。


「そんなに寒い?」
「ランニングしても寒くって、今日凄く冷えてる」
「坂木って寒がり?」
「うん。カイロ買って帰らないとなぁ」


手を繋いで登校したい願望は坂木の寒がりな防寒装備を見て薄くなって、今日の体育で風邪を引かないか心配の方が上回ってしまった。

取り敢えず教室に着いたら手を温めて坂木の頬を挟んでやろうと決めた。

………………
手を繋ぎたいのに。−End−


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