清月番外編

□何処に行ったバレンタインデー
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坂木、委員長共に高1、バレンタイン

……………………………………
バレンタイン前日。
放課後in保健室。
保健の先生と委員長


「ほれ、1日早いがハッピーバレンタイン」
「……先生からって普通のチョコじゃないですよね」
「その通り。媚薬入りだ」
「返品します」
「貰っておけよ。薬で飲ませるより遙かに食べさせやすいだろ」


僕は悩む。
確かに薬を粉々にして飲み物とかに混ぜたりする手間を完全に省けて楽に食べて貰えるチョコ。

しかも僕は甘いチョコは苦手だから坂木に言ったら怪しまれずに食べて貰えるだろう。

しかも明日はバレンタイン。
いつもの倍以上に食べて貰える率が高い。

だけど相手は坂木。
坂木なんだよ。


「ヒュ〜東君乙女の顔になってる〜いつも澄ました鬼タチなのに〜」
「返品します!」
「まぁまぁ。貰っとけ。明日チョコ貰った時に確かめられるだろ?媚薬入りかそうでないか」
「……」
「ネコのみんなからソレを貰ったりしてな」
「先生、どうしても僕に押しつけたいんですね」
「応援してるんだよ。頑張れ青春学生。さっさとフられて俺で発散するんだな」
「ドエム変態が」
「もっと罵れ」
「キモい」
「ありがとう」


結局僕はチョコを返品出来ずに貰ってしまった。

どうしよう、あげようかな……このチョコを写メしてから一度溶かして形を変えたら怪しまれないよね。

貰ったチョコは写メで確認すれば捨てれるし。

……頑張って溶かしてあげよ。


.
.
.

翌日バレンタインデー。


「えー、休みは大久保と坂木と栗平と三沢だな。委員長、このプリントを回してくれ」
「……」
「おーい、委員長?」
「……」
「あ、フリーズしてる?委員長、戻ってきなさい」


先生に揺さぶられて現実に戻った。

坂木、休みだと?!
どうして?!
最近気温が下がったり上がったりで体調崩した?!
あの冷え症っ子、とうとう寝込んでしまったの?!
なんで寝込むのがバレンタインデー当日なの!

チョコが渡せない!


悶々としながら授業を受けて放課後は部活をサボって坂木のお見舞いに行く。

勿論プリント、ノートのコピーをしたし、ヨーグルト、ゼリー、レンジで簡単お粥と梅干しを買って持って行く。

呼び鈴鳴らせば出てきた坂木。
厚めの靴下にジャージにマフラーにマスクに冷えピタに手袋。
赤い頬に潤んでる瞳、震えてる身体。

うん、思っていたより重症だった。


「けほ、けほ、くしゅん!い、委員長?」
「お見舞いに来たんだ。あげて」
「駄目、移るか、ブエッックジュン!ア゛ー……フクシュンッ!」
「此処は寒いからベッドに戻って!」
「ぅう゛ー……けほ、けほ、」


坂木をベッドに戻してゴミ箱を見ればティッシュの山。
鼻水も酷い様だ。


「お昼食べた?」
「寮長さんが、お粥持ってきてくれた」
「医務室は?」
「今、満員だって。流行ってるみたいだから……ゲホッゲホッ!フエッ、フエッ……ブクシュン!」
「はい、ティッシュ」
「委員長、明日、悪いけどティッシュ買ってきて。トイレットペーパーでも良いから」
「解った」


この様子だと明日も休むだろうな。
それに、チョコを渡せるのはだいぶ先になりそうだな。


「い、委員長」
「なに?お水?ゼリー食べる?」
「ううん。お見舞い、来てくれてありがとうって言いたくて」


マスクを下げてヘラッとした笑みを向けた坂木に俺の胸にズキュンと矢が刺さった。

あぁ、可愛いよ坂木。
襲って良いかな?駄目だよね。


「でも、明日はマスク着けてこないと、危ないから、日頃から着けてた方が良いよ」
「うん、解った。マスク着けて行くよ」
「へへ……俺、ねむたいから、寝るかも」
「良いよ。勝手に帰るから。おやすみ」
「うん」


掛け布団を直して頭を撫でると坂木は眠った。

ゼリーとヨーグルトは冷蔵庫の中に入れておきたいけどジャアニズムの鷲津先輩が坂木の物は僕様の物だと言って食べそうで怖いから坂木の鞄の中に隠しておく。

プリントとノートのコピーは机の上に置いておく。

明日はティッシュかトイレットペーパーだな。
忘れないようにしておこう。

晩ご飯は寮長が持ってきてくれるだろうし大丈夫かな。


「じゃあね、また明日」
「……ん、」


寝ていても返事してくれるのか。
本当に可愛いな坂木。


電気を消して坂木の部屋を出て自分の部屋に戻ると念入りに手を洗ってうがい薬でうがいをした。
僕まで倒れたら坂木のお見舞いに行けないし、坂木に罪悪感を持って欲しくない。


「あれ?戻ってたの東君」
「……鶴見先輩」
「部活にしては早い帰宅だね」
「部活はサボって坂木のお見舞いに行ってましたから」
「え、坂木君の所に行ったの?」
「はい」


そう言うと鶴見先輩は顔を青ざめさせて僕を再び洗面所に押し込んだ。
何だと言うんだ。


「もう一回手洗いうがいして。手遅れかもしれないけど」
「どうしてですか?」
「坂木君、インフルエンザの可能性が高いって寮長が言ってたから」
「え……」


後日、何故か僕ではなく鶴見先輩が熱で倒れてしまった。

坂木は相変わらず咳とくしゃみと鼻水が酷くて病院に連れて行かれた。
結果はインフルエンザでは無かったのが幸いだと思う。

そして坂木が復活した頃にインフルエンザが流行して学級閉鎖。

チョコどころでは無くなって結局今年のチョコは誰からも貰わなかったし誰にも渡せなかった。


−何処に行ったバレンタインデー−
終わり。


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