平凡勇者と腐った魔王様

□プロローグ
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−プロローグ−

むかーしむかし、勇者と魔法戦士と武道家と僧侶のパーティーが魔王を討伐しに魔王の元へやってきました。


「魔王!覚悟!」


ゲームで言えばラスボス戦。
勇者達は地道な戦いと中ボス戦を繰り返し森をさまよい何度も飽きるくらいに敵と戦っていくうちにレベルがカンストしている!倒す気満々だ!


しかし、魔王は戦いたくない様だ?!


「ごめん、覚悟出来てないからまた今度。あっ、クッキー食べる?そんな物騒なもんは仕舞ってお茶しよーぜ。久しぶりに人語を話せる奴らが来たんだ、沢山話を聞かせてくれよ」


むしろお茶を誘っているぞ?!


「お前のした悪事は許されない!」
「えっ、お前ら俺が厨房のリンゴを摘み食いしたの知ってんの?!それとも女風呂を覗いた事か?いや、鳥の巣を豪華にしたことか?」

「よくも俺の親を!友を!」
「……手を下したの俺じゃない。命じたのも俺じゃない。残念だったな、人族潰しを命じたのは人族に親を殺され復讐に燃えていた側近だ。つまり、此処に来る前にお前達が倒した奴だ……て、事は……おぉ!良かったではないか!復讐は果たされた!ほら、お茶がはいったから飲め。冷めるぞ?」

「茶よりもさぁ、お前は強いんだろ?だったら手合わせしてくれよ」
「無理無理無理!暴力嫌いだし、そこの人に一撃で殺されるって。そこの人達の方が強いから手合わせはその人としてよ。あー、クッキーうめぇ。クッキー焼きたてだぞ?食べないのか?」

「貴方の心は闇に支配されている!世界は魔王の闇に支「ちょっ、宗教お断りなんですけど!宗教勧誘するなら他あたってくれ!世界が闇に支配されてるって?知るかよ!俺には関係ない!……そう言えば、人族ってネガティブ思考だったな。類は友を呼ぶと言うから連鎖繋ぎで暗いんじゃねーの?肩の力を抜いてポジティブに生きようではないか!」


魔王は勇者達を座らせてお茶を丁寧に出している。そして食べろとクッキーを皿に分けて出す。話し合いの場が出来あがってしまった!

けれど勇者達は警戒を継続中だ!
魔王は油断させて勇者達を倒すのではないか、このお茶やクッキーに毒が入っているのではないかと疑っている!
武道家は苛立ってクッキーが乗ったお皿やお茶を払いのけ床に落とした!無惨に皿が割れる音が部屋中に響く!


「ふざけんな!こんな茶番してられるか!」


武道家は血の気が盛んだ!脳筋戦闘狂だから仕方ない!
テーブルに身を乗り上げ最強呪具を装備した拳が炎をあげて魔王の顔面に向かって振りかぶる!


「あぁ、勿体ない。これだから野蛮な武道家は。ビールが良いのか?酒盛りの方が良かった?」


武道家の拳は空振りした!そして武道家はテーブルの上から床に落ちて顔面から豪快に着地!着地点に居たはずの魔王は悲しげな表情で床に落とされ割れたティーカップやクッキーを拾っている!


何時の間に移動したんだ?!と勇者達はさらに警戒心を高めた!


「酒盛りでワイワイ騒いで飲み明かすのは好きだったよ。沢山友がいて、一日一日が楽しかったなぁ……けど、今は人を呼べるほど友はいない。だから静かにお茶の時間を過ごす事に慣れてしまってな。お茶は1人でも出来るし、静かな時間も悪くないと思わないか?」


魔王は無理して笑った。
そして拾い終わった破片や残骸をゴミ箱に入れるとビールを持ってくると言って部屋を出てしまった。


残された勇者達。
気まずい空気。
まさかのお飾り魔王。
どうする?
勇者達は会議を始めた。
倒すか
殺すか
葬るか
消すか
呪いをかけるか
話を聞くか


「ほら、ビールを持ってきたぞ!つまみはチーズとスルメを持ってきた!もっと用意してくるから待っててくれ!」


ビールを置いて、笑顔で持て成す魔王を見て勇者達は気が抜けた。
俺達はあんな魔王を討伐しにきたのかと。
こんなに持て成す魔王を倒しても後味が悪い気がする。


「勇者カブリアよ」
「なんだよ魔法戦士ジェスト」
「魔王の顔ストライクゾーンなんだが。この魔法の小瓶に入れて飼って良いか?」


魔法戦士が持つ小瓶は本来大きな荷物をコンパクトに仕舞う為の魔法の小瓶であって、人を入れて飼うための物ではない。


「駄目に決まってんだろ!つか、お前魔王の顔が好みかよ!」
「アンアン鳴かせたいですね。泣きそうだったあの顔、凄くそそります」
「真顔で言うな変態!」


話を聞いていた僧侶はテーブルに肘を立て手を組むと何度もテーブルに額を打ち付け許しを得ようとしていた。


「不純だ!ジェストも魔王も男!あぁ!神よ!この者達を許したまえ!許したまえ!」
「落ち着け僧侶のハマーダ!止めてくれよ武道家のゲルド!」
「このビール……最上級に美味い?!」
「ゲールードォォォォオ?!」


変態に几帳面に筋肉ビール馬鹿。
そんなパーティーを持つ勇者はツッコミ担当となっていた!


「カルパッチョとかステーキを作ってみた!沢山食べて飲め飲め!おかわりは沢山あるからな!あぁ、こんな賑やかなのは久しぶりで私は嬉しい!」


ステーキをテーブルに置くと食いつく武道家、じっと此方を見る魔法戦士、テーブルに額を打ち続けている僧侶、そして誰か止めてくれ!と嘆く勇者。魔王はニコニコ笑う。そしてまた料理を持ってこようと部屋を出た。


「楽しい宴は好きだが……あやつらは俺を殺すのだな。魔王になれば勇者に葬られるのが運命。やっと、皆の元に逝ける。待っててくれ、友よ」



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