平凡勇者と腐った魔王様

□はじまりはじまり
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勇者とは
勇気のある人。勇士。

そう広辞苑には書かれている。
では、勇士とは?

勇気ある人。いさましい人。ますらお。

ついでにますらおとは
立派な男。強く勇ましい男子。狩人。とか書かれている。こちらも広辞苑より。


俺、チャムル・カブリアはそんな勇ましいを連呼ばかりする勇者の末裔らしい。
俺が本当に末裔なのか疑問だ。勇気無いし、容姿から全然勇ましくもないし。格好良くないし、イケメンでも無いし。田舎もんだし。

村人E的な田舎の畑を耕してそうな平凡な容姿をしている。トマト好きだぜ。

そんな俺は何故此処に来たんだろ。
いや、親から勇者なら必ず入らなければならないと言われて無理矢理入れられたんだけど。


世界で数少ないこの国の首都にある武術・魔術育成専門学校。
普通に胡散臭い学校名だが校舎は多くて凄い。

右手に見えますは巨大な屋敷と言うか書庫。普通の文庫本から魔道書とか禁書とか揃っている本の棟。それに、魔法を使うため膨大な広い敷地。結界、それに、儀式や実験を行える場所や聖地も有る。

左手に見えますは巨大な武道館。しかも武道館は大小沢山あり実技が主な武術科の生徒が使っている。闘技場が有るとか聞いたけど、絶対に出たくない。そして地下にもトレーニング場が有るとか無いとか。うわっ!弓が飛んできた!


はぁ、こんな学校に本当になぜ俺が。
武術も魔法も平均より下なのに。本当に家でトマトを耕す方が得意かもしれない。
取り敢えず親が言った通り校長室に行かねば、


「カブリア!」
「おごっ!」


意気込んだ矢先に急に後ろから大声で呼ばれ、振り向く間も無くガバリと後ろから抱きつかれた!
だ、誰だ?!へ、変態だ?!



「離せ変質者!」
「カブリア!カブリア!」


ギューギューくっついて離れねぇし!しかも何で俺の名前を知ってるんだ?!聞いたこと無い声だし、絶対に俺はコイツと初対面のはず!村の友人が此処に居てるはずが無いんだ!村のみんなは家を継いで畑を耕してるからな!



「だっ、誰か!ヘルプ!ヘルプミー!」


って言ってもタイミング悪く誰も通ってないし!くそぉっ!困った!どうする?!どうすれば良いんだよ?!早く校長室にも行かないといけないのに!

そう焦っていたのだが、今度は急に肩が軽くなった。


「……カブリアはもう、いなかったな、悪い。余りにも雰囲気や匂いとか後ろ姿が似ていたから、勢いに任せてちまった」


振り向けば今まで見たことか無く、今まで見た中で一番美形でキラキラしてる男が悲しげな顔をして俺を見ていた。
なんだ、このイケメンは。


「なんだ、顔までもそっくりじゃないか。お前は何者?」


そっと俺の頬にイケメンの手が触れる。
そこから身体がゾワッとして、顔に熱が集まる感覚がする。イケメンに見つめられてドキドキするとか、俺、俺はっ、男にトキメいてるのか?!イケメンの背景に薔薇が見えるとかやばくねぇか?!なんのパワー?!何魔術ですか?!

テンパりだした頭はグルグル回るだで何も解決しない。マジで本当に誰か助けてくれ!

声に出なくて心の中で叫んでいた。
けれどそんな俺にイケメンは追い討ちをかけるように耳元で囁きだして、


「名前はなんだ?」
「チャ、チャムル・カブリア!」


一気に俺の背筋がゾゾゾッとして、声が裏がえった。そして目に涙が溜まる。俺、なんでこんな目に!イケメン無駄にくっつき過ぎだろ!離れてくれよ!



「チャムル・カブリア……勇者の末裔か?」
「は、はいぃっ!」
「だからこんなにそっくりなのか頷ける。性格も少し似てそうだ」
「あああ、あの!俺、行く所が有るから離れてくれ!」
「それは何処だ?会館か?」
「校長室!」
「校長室か、連れて行ってやるよ」


やっと離れた(と言っても顔だけで体の密着度は足一つ分という距離の短さだからまだまだ近いけども)イケメンはパチンと指を鳴らしたイケメン。
すると、俺とイケメンの足下に魔法陣が浮かび光が灯る。その光に包まれて俺は眩しさの余りに目を瞑った。

目を瞑っても明るいと分かっていたかが暗くなる。そっと目を開けば見知らぬ場所へ着いていた。目の前は大きな扉、後ろは窓と例のイケメン、右は突き当たり、左は長い廊下、そして真っ赤な絨毯。外から何処かの校舎の中にテレポートをしたようだ。


「おいヴィリア!勇者連れてきたぞ!」
「えぇ、ちょっ、待てよ!」


ヴィリアって、ヴィリア・ジェスト?!校長を軽々しく呼ぶなんて、このイケメン何者?!しかも扉のノック無しで開けるか普通?!つか、俺の心の準備は無視か!

イケメンに手を無理やり引かれたまま俺も中へ入ると、


「サル!よくぞ来てくれました!さぁ、ベッドは此方です。先にシャワーを浴びますか?」
「相変わらず変態だな。それより勇者を連れてきたんだ」
「勇者?あぁ、そのチンチクリン?」
「は、初めまして、勇者の末裔のチャムル・カブリアです」


おい、チンチクリンって失礼だろ!初対面でチンチクリンって、あぁくそっ!この校長もイケメンだ!ロン毛で女男みたいな美形だよキラキラチカチカ畜生!文句言いたいけど我慢だ!


「ではチンチクリン、この剣を抜いて下さい」


校長が指を指した先はソファーの横に立てられていた古そうな剣。抜いたら錆びてそうな予感。近寄って自分の手に取ってみると思ったより軽くて長い。グリップを持つとしっくりくる。そして剣はすんなり鞘から抜けた。


「抜けましたか、チンチクリンは本物の勇者と証明されましたね」
「容姿もそっくりだし間違いないだろ?」
「では、入学を許可します。では、卒業条件を教えましょう。このサルを三年以内に倒すことです。以上。」


は?え?んん?
ちょっと待ってくれ。勇者の末裔だと証明されたっぽいのと入学許可が降りたまでは良い。けど、授業云々の前にもう卒業課題とか、しかもこのイケメンを倒す?、はぁ?
どういう事なんだ?

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